宮城、三陸の夏の珍味として、県民に食されてきたホヤ。人間が持つ5つの味覚、甘味・塩味・酸味・苦味・旨味を持ち合わせた不思議な食べ物だ。そのフォルムから“海のパイナップル”とも表現される海産動物で、魚でもなく貝でもない。味や香りが独特なため苦手な人も多いのはうなずけるが、あのホヤにしかない“クセ”が好きな人にはたまらない魅力なのだ。約50種類のホヤ料理をそろえる県内初のホヤ専門店で、旬の味を堪能した。
画像ギャラリー「もっとホヤを食べましょう」との思いで立ち上げた店
ホヤの旬は5~8月。食用とされているのは「真ボヤ」や「赤ホヤ」で、宮城県では昔から真ボヤの養殖が盛んだった。1970年頃から、宮城県がホヤの生産量全国1位を占めていたが、東日本大震災後、宮城県産ホヤの7割を出荷していた韓国が輸入を禁止したため販路を失ってしまう。
しかし、その苦境が『ほや&純米酒場 まぼ屋』オープンのきっかけとなった。
「ホヤが生産過剰となり、廃棄処分しなければいけない状況が続いたんです。宮城県が誇る食材を多くの人に知ってもらい、食べてほしい。消費拡大を助けるべく、刺身や酢の物が主流だったホヤを多種多様な料理に変化させ提供しようと、この店を始めました」と、『まぼ屋』のほかカキ小屋などの飲食店や、ホヤ加工工場を経営する『飛梅』の代表・松野水緒さんが開業の経緯を語る。
提供するホヤ料理は45~50種類。定番の刺身や酢の物はもちろんだが、その定番和食の中にも昆布締めやなめろう、味噌漬け炙りといった、ひと手間加えた品が並ぶ。唐揚げや餃子、アヒージョ、ピザ、混ぜそばと、変化球メニューの幅も実に広い。
「私もスタッフもホヤが大好きで、ホヤのことばっかり考えてます(笑)。新メニューの発想は、その時世間で流行っている食べ物から影響を受けたり、外食中に『これをホヤで作ったらどうだろう』と考えたり。
開業当初はホヤの調理は未知数で、新メニューを作るまでに時間がかかっていましたが、今ではホヤに火を通したらこうなる、ホヤのペーストだからこういう食感……と、だいたい想像がつくので、思いついてからメニューになるまでは早いですね」
『まぼ屋』のこだわりは、石巻・雄勝(おがつ)から仕入れる朝獲れのホヤ。
「ホヤは体内に残ったフンの臭いが時間の経過とともに身に移り、それが嫌な臭気となります。ですので鮮度もさばき方も大事ですが、実は管理環境もすごく大事なんです。店舗での保存方法、温度管理には細心の注意を払ってます」
変幻自在! ホヤ三昧の世界
それでは数あるメニューの中から人気、注目の品をご紹介!
「目新しいホヤ料理があるとはいえ、やはり外せない」と運ばれてきたのは刺身。見たこともないような身の厚さと、ホヤ1個から取れる身の量なのかと二度びっくり。
「ホヤは育てた時間に応じて2年子、3年子と呼ぶんですが、うちの刺身には4年子を使ってます。やはり収穫までの時間が長いほど味が濃厚なんです」
身の引き締まったホヤは、特有の香りが強く、後味にほんのり苦みを感じる。ホヤの根元に近く、とろけるような食感と甘みが際立つ「ヘソ」や、ホヤの突起部分でコリコリとした食感の「クチバシ」との食べ比べも楽しい。
パテとコンフィは、洋風メニューの中でも特にその傾向が強い。
生クリームで仕上げたパテは、言われなければホヤとはわからないほど濃厚。それなのにたっぷり入った野菜のおかげか、まったく重くない。
ハーブを入れた低温のオリーブオイルで、じっくり火を通したコンフィも斬新。
まず生とは違う柔らかさが新鮮で、身に少し残っているクチバシのコリコリ食感が面白い。バルサミコ酢を煮詰めて作った特製ソースの、濃厚な甘酸っぱさと相性抜群だ。
最後は2022年上半期イチの自信作、釜飯で締める。
ピカピカの宮城県産ひとめぼれの中に淡いオレンジ色のホヤがたっぷり。
「ご飯だけ食べてもおいしくないですか? ホヤの身から濃~いダシを取って、それで炊き上げてるんです」
複数の乾物を使い、旨みを重ねた奥深いダシというよりは、シジミやアサリの潮汁のように、素材の旨みを凝縮した磯のエキス、と表現したくなる。ホヤからこんなにいいダシが取れるとは意外だった。
「ホヤは生でも加熱しても、和でも洋でも、何でもいける万能食材だということをもっと広めたいです。
うちは“純米酒場”を謳っていて、純米酒のラインナップは約30種類。そのうちの半分が宮城の地酒です。ホヤと一緒に純米酒も楽しんでいただければ」と松野さん。
ホヤの旬は5~8月だと言われているが、松野さんによれば、産卵前に旨み成分のアミノ酸が増した秋のホヤも格別だし、産卵を終えた春先のホヤもあっさりしていて、また違う美味しさがあるらしい。つまりいつ食べてもホヤはうまい、ということか。
まずは2022年夏の旬を食べ逃さないようにしなければ。
■ほや&純米酒場 まぼ屋 仙台駅前店
[住所] 宮城県仙台市青葉区中央1-6-39 菊水ビル仙台駅前館3階
[電話番号] 022-796-6226
[営業時間]17時~24時(23時LO)
[定休日]月
[交通] JR・仙台市営地下鉄仙台駅西口から徒歩3分
取材・撮影/阿部真奈美
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