冬は旨いもんだらけ。鮃に鰤に細魚に煮蛤……
11月から春先まで、貝類、イカと何でも美味しくなる季節です。11月1日を「寿司の日」としているのも、「さあ、これから旨いもんがたんと食えるよ」という号令のようなものです。
まず、この季節のトップバッターは鯛。春の桜鯛に対して紅葉鯛。春から夏にかけて産卵を終えた真鯛がやっと美味しくなってくる頃です。
同じく白身魚では冬の王様・鮃(ヒラメ)。これも夏に産卵を終えて、11月から3月までが美味しい時期です。ようするに、一般的に、魚は産卵期を過ぎると栄養が落ち美味しくなくなる。そして、寒くなると脂がのって美味しくなる魚が多いということです。
それから鰤(ブリ)。寒鰤と言われるくらいで12月から2月にかけての厳冬期が旬です。特に富山湾の寒鰤は脂のノリも最高で絶品です。ご存じの通り、鰤は出世魚で、関東では、ワカシ→イナダ→ワラサ→鰤。関西では、ツバス→ハマチ→メバル(メジロ)→鰤と名前が変わっていきます。
細魚(サヨリ)。これも当店では人気の一品で、醤油ではなく塩でいただいてもらっています。旬は1月から4月くらいです。
貝類では、玉挑、通称平貝、そして、赤貝に海松貝(ミルガイ)あたりが冬に旨くなってきます。特に海松貝は、貝の中では最上級の旨さで、江戸前では三浦沖で獲れます。
イカは、種類も多く産地も日本各地で獲れますから1年中美味しい。まず、秋から冬のスミイカ。春のヤリイカ。初夏から夏がアオリイカに白(剣先)イカ。スルメイカも夏場のムギイカ(スルメイカの子)に始まって、秋から美味しくなります。
鮪(マグロ)については、冷凍ものが主流ですから1年中美味しいですが、あえて言えば、脂がのってくる冬が旬ということになります。
冬の味覚で忘れちゃいけないのが鱈(タラ)の白子焼き。焼き方が難しく、うっかりするとグジャグジャになってしまう。もちろん手前どもの白子はパリッと香ばしい。ただし、この焼き方だけは企業秘密。サービス精神は人後に落ちませんが、こればっかりはご勘弁願っています。
ホクホクの白子もいいのですが、お奨めしたいのが煮蛤(ハマグリ)。当店では一押しのメニューです。5、6分硬めに煮てから漬け込むのが普通のやり方ですが、私は時間を掛けずに柔らかく仕上げます。噛んだ瞬間の食感と旨みを最大限に出すにはこれが一番。口の中に広がる味わいは格別です。
蛤といえば「その手はくわなの焼き蛤」の三重県・桑名が有名です。関東なら鹿島のジハマ、ほかにも三陸でもいい蛤が獲れます。とはいえ、昔のようには獲れなくなりました。今では稚貝を撒いて育てる養殖が主流です。国内産の「内地もの」にこだわる板前も少なくありませんが、中国産のものや、韓国で獲れた「朝鮮もの」が柔らかくて旨いのも事実。これからの時代の食は臨機応変にいかないと成り立ちません。頭と蛤は柔らかいのが一番というわけです。
(本文は、2012年6月15日刊『寿司屋の親父のひとり言』に加筆修正したものです)
すし 三ツ木
住所:東京都江東区富岡1‐13‐13
電話:03‐3641‐2863
営業時間:11時半~13時半、17時~22時
定休日:月曜日、第3日曜日
交通:東西線門前仲町駅1番出口から徒歩1分