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「それを乗り越えてゆくのがロックだろう」

所沢の合宿から帰って来たPANTAは頭脳警察の活動を本格的にスタートさせた。すぐに評判となり、ビクター・レコード(当時)との契約がまとまった。デビュー作はライヴ盤が良いだろうということになって、京都府立体育館と東京都体育館で演(や)ったライヴが録音され、『頭脳警察1』として発売されることになった。ところが「世界革命戦争宣言」などあまりに過激な内容の曲が多く、ビクター・レコード内部で問題となり発売禁止となった。

そこで、急遽スタジオで曲を録り直し、PANTAの考える“ヤバそうな曲”を外して、『頭脳警察2nd』を完成させた。だが、今度は発売1か月にしてレコード制作基準倫理委員会(通称レコ倫)から歌詞にクレームが付いて再び販売中止となってしまう。メジャーからデビューして、1作目、2作目と立て続けに発売禁止となった。こんなバンドは日本の音楽史上、PANTAの頭脳警察だけだ。

“発売禁止?そりゃあメげたよ。でも、それを乗り越えてゆくのがロックだろう”

そう言うPANTAは「クタバレ!レコ倫」という曲を作ろうかと思ったけど、発禁になるのが目に見えているから止めたと笑っていた。

ちなみにレコ倫というのは表現の自由に対し、とても厳しい。かつてプロデュースした女性シンガー・ソングライターの曲に“血をなめて”という一節があった。これに対しレコ倫は、酒鬼薔薇聖斗事件を思い起こさせるので、アルバムから楽曲削除を求めて来た。ぼくは抵抗したが、削除しないとアルバムを出せないとレコード会社に迫られ、その曲を外して発売した経験がある。

“ロックというのは8ビートのサウンドだけを言うんじゃない。その根底には生き方、表現、信念などが流れてるんだ”と語るPANTAには、「ロックもどき」という、今にしては現代の軽佻浮薄なサウンドだけがロックという音楽に一撃を放ったような1976年発表の名曲がある。

頭脳警察のアルバムの数々。発売禁止になった1972年の幻のデビューアルバム『頭脳警察1』(中央上)は21世紀になって再リリースされた

岩田由記夫
1950年、東京生まれ。音楽評論家、オーディオライター、プロデューサー。70年代半ばから講談社の雑誌などで活躍。長く、オーディオ・音楽誌を中心に執筆活動を続け、取材した国内外のアーティストは2000人以上。マドンナ、スティング、キース・リチャーズ、リンゴ・スター、ロバート・プラント、大滝詠一、忌野清志郎、桑田佳祐、山下達郎、竹内まりや、細野晴臣……と、音楽史に名を刻む多くのレジェンドたちと会ってきた。FMラジオの構成や選曲も手掛け、パーソナリティーも担当。プロデューサーとして携わったレコードやCDも数多い。著書に『ぼくが出会った素晴らしきミュージシャンたち』など。 電子書籍『ROCK絶対名曲秘話』を刊行中。東京・大岡山のライブハウス「Goodstock Tokyo(グッドストックトーキョー)」で、貴重なアナログ・レコードをLINN(リン)の約400万円のプレーヤーなどハイエンドのオーディオシステムで聴く『レコードの達人』を偶数月に開催中。最新刊は『岩田由記夫のRock & Pop オーディオ入門 音楽とオーディオの新発見(ONTOMO MOOK)』(音楽之友社・1980円)

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