国内外のアーティスト2000人以上にインタビューした音楽評論家の岩田由記夫さんが、とっておきの秘話を交えて、昭和・平成・令和の「音楽の達人たち」の実像に迫ります。ロックバンド「頭脳警察」のPANTAの第3回では、PANTAの変わらない信条がつづられます。決して媚びずに、自分を貫き通すこと。熱い思いをお読みください。
一生ミュージシャンは少ない
一生、音楽関係の仕事をして食べてゆくのはかなり難しい。レコード会社の社員で、かつては花形ディレクターと呼ばれた方を何十人と知っているが、その内の多くは今は他業種に転職されている。移り変わりの多い業界なのだ。かつて、ぼくと同じ頃に音楽ライター業を始めた同期も多くが音楽業界を去っている。業態の変化が大きい業種なのだ。
ミュージシャンにもそのことが当てはまる。一生、ミュージシャンの仕事を貫き通せる人は少ない。PANTAは19歳で頭脳警察を結成して以来、ずっとミュージシャンのままで、他の仕事をしたことが無い。世間は大ヒットを放った人やテレビに出ている人に目がゆく。PANTAも、もちろんテレビ出演などもあったが、それはごくわずかで生涯、レコードやCDを作って、ライヴをして食いぶちを得て来た。
そんなことが出来たのはデビュー以来、常に熱狂的なファンを擁し、いわゆるメジャー的な仕事の多くにそっぽを向けてきたからだ。売れることより、自分を貫き通した。そんな生き方に共感するファンは全世代に広がっている。
「全米No.1になりたい」
本人は“オレは別に頑固じゃない”と何度も言っていたが、20代初期から40年以上、PANTAを支えてきた所属オフィスの社長、石井康則はそう思っていない。“何度も、もっと売ろうと考えて、様々な仕事を取ってくる。それをPANTAにオファーしても、お金が入ってくることや知名度を上げることより、自分の判断だけで断るように言われてしまう”と語っているのを何度も目にした。
“オレだって、もっとアルバム・セールスを伸ばして、お金は手に入れたいよ。でもさ、生理的に出来ないこと、これをやったら単なる売名奴になって、期待しているファンを裏切っちゃうようなことは絶対にやらないね”
ある時、トヨタからタイアップの仕事が来たことがあった。それも最初は断っている。とにかく徹頭徹尾、ロックな奴なのだ。こんなことも言っていた。“ファンの期待通りに自分を合わせるのは逆に失礼だ”。前言の通り、ファンを裏切ることはしたくないという一方で、ファンの期待通りに自分を合わせるのは失礼だと言う。一見、矛盾しているように思えるが、PANTA及び頭脳警察のファンにとっては、そんな破天荒なミュージシャンだからPANTAを信用でき、彼の音楽を愛することが出来るのだ。
PANTAがデビュー以来、今でも言い続けているのは“全米”No.1になりたい”だ。では、その為に大衆受けしそうな楽曲を書くわけではない。あくまでも、あるがままの自分を貫き通した上で全米No.1になりたいのだ。世界に媚びることはしない。だが、自分の音楽を信じているから、全米No.1になりたいと言い続けられるのだ。
でもPANTAには例えば作曲者としての実力はある。かつて盟友だった井上陽水の妻でシンガーの石川セリに楽曲提供をしたことがあった。その曲、「ムーンライト・サーファー」は今でも石川セリのファンには名曲として愛されている。同じくかつて、人気絶頂時のスージー・クワトロは日本公演のサポートをPANTAに依頼してツアーを行った。誰でも頭脳警察やPANTAの音楽を聴くと、その隠れたポップス性とロック・スピリットに気付かされるのだ。