“掛け金”はお菓子
また、以前の取材では、塀の中のギャンブル事情についても聞いた。テレビの大相撲でどっちが勝つか、とか。のど自慢でどの出場者が鐘をいくつ鳴らすか、とか。他愛のないことで賭け合うのだという。
賭け金の代わりは? ……そう、お菓子である。
「旗日にはかりんとうとか、お菓子が出ますからね。それを賭けるんです。勝った奴が負けた奴からかりんとうをぶん取る。『あっお前、1本多いぞ』『いや違う。俺はこれだけ勝った』なんて。大の大人が、かりんとう1本でケンカしてますからね。笑い話にもなりませんよ」
塀の中ではこうした食事のやり取りは、ご法度である。第2回でも触れたが、刑務所内の隠語で「シャリ上げ」と称す。かりんとう1本であれ、見つかったら処罰される。やった方も、もらった方も。
「見つかったら処罰だけど、でもやっぱり『シャリ上げ』はなくなりませんよねぇ」と後藤氏。「上の者が下の者に、『メシ寄越せよ』と露骨に言うこともあるけど。それよりも『俺、今夜のこのメニュー好みなんだけど、お前はあんまり好きじゃないよね』なんて、遠回しに言ってくる。下の者は『あ、はい』と。従うしかないですよねぇ。刑務所内のイジメ事情はこんなものです」
お菓子を賭けたギャンブルはあったのかと尋ねると、「それはしょっちゅうだった」という返事だった。
「ただ賭けの対象は、テレビのクイズ番組で『答えはAかBか』とか。そんな感じでしたねぇ。少刑では『のど自慢』とかはあまり見ませんので(笑)」
こういうところに成人刑務所と、少年刑務所との違いが出てくるようで……
文/西村健
後藤祐樹
ごとう・ゆうき。1986年、東京都江戸川区生まれ。1歳上の姉は、元『モーニング娘。』の後藤真希(通称・ゴマキ)。99年に13歳でスカウトされ、2000年にソニンと組んでダンスボーカルユニット『EE JUMP』のメンバーとして歌手デビュー。01年に発売した「おっととっと夏だぜ!」がスマッシュヒット。未成年でキャバクラに通っていたことが報道されるなどして02年に芸能界を引退した。とび職をするなどして働いていたが、07年10月に銅線の窃盗容疑で逮捕され、12月には強盗傷害で再逮捕、翌08年5月に懲役5年6月の実刑判決を言い渡された。その後、川越少年刑務所に収監され、12年10月に仮釈放で出所。15年に現在の妻の千鶴さんと結婚し、義父のダクトを扱う会社を手伝うほか、YouTubeなどで活動している。22年1月からは芸能事務所「エクセリング」に所属。
西村健
にしむら・けん。1965年、福岡県大牟田市生まれ。東京大学工学部卒。労働省(現・厚生労働省)に勤務後、フリーライターに。96年に作家デビュー。2021年で作家生活25周年を迎えた。05年『劫火』、10年『残火』で日本冒険小説協会大賞。11年、地元の炭鉱の町・大牟田を舞台にした『地の底のヤマ』で日本冒険小説協会大賞を受賞し、12年には同作で吉川英治文学新人賞。14年には『ヤマの疾風』で大藪春彦賞に輝いた。他の著書に『バスを待つ男』『目撃』、雑誌記者としての自身の経験が生んだ長編『激震』など。
【後藤祐樹さん著書紹介】
『アウトローの哲学(ルール) レールのない人生のあがき方』(講談社ビーシー/講談社、1650円)。15歳でアイドルとして人気絶頂を極めた男が見た、奈落の底。朝倉未来とも闘い、ユーチューバーとしても活躍する後藤祐樹の波乱万丈の人生を描く。彼の生き方は、無難にしか生きられない我々に教訓と指針のヒントを与えてくれている。「いき詰まったら、読んで欲しい」一冊。