「おとなの週末Web」では、食に関するさまざまな話題をお届けしています。「『食』の三択コラム」では、食に関する様々な疑問に視線を向け、読者の知的好奇心に応えます。今回のテーマは「ビタミンの日」です。 文:三井能力開発研究…
画像ギャラリー「おとなの週末Web」では、食に関するさまざまな話題をお届けしています。「『食』の三択コラム」では、食に関する様々な疑問に視線を向け、読者の知的好奇心に応えます。今回のテーマは「ビタミンの日」です。
文:三井能力開発研究所代表取締役・圓岡太治
ビタミン欠乏症で多くの人命が失われた
ビタミンは人間が生存するために不可欠な必須栄養素です。食糧事情の豊かな現代の日本では、ビタミン不足が原因で死亡する例はまれですが、ビタミンが発見されるまでは、ビタミン欠乏症で多くの人が命を落としていました。
大航海時代以降、ヨーロッパで深刻な問題となっていた壊血病(かいけつびょう)は、現在ではビタミンC欠乏症であることが判明していますが、数世紀の間その原因が分からず、数百万人の船乗りの命が奪われたといいます。また、かつて日本の国民病とも呼ばれた脚気(かっけ)は、ビタミンB1の欠乏によるものですが、すでに江戸時代から「江戸わずらい」として問題となっており、明治~昭和初期には、脚気による死亡者数が毎年1万人を超えていました。
このように重要な栄養素であるにも関わらず、ビタミンが発見されたのはわずか百年ほど前のことです。さて、このビタミンの発見について述べた以下の文章のうち、正しいものはどれでしょうか。
(1)1906年、イギリスのフレデリック・G・ホプキンスは、当時知られていた4大栄養素(タンパク質、炭水化物、脂質、ミネラル)のほかにも成長に必要な未知の栄養素があることを発見し、その抽出に成功した。この未知の栄養素が現在のビタミンであり、ホプキンスはその功績によりノーベル賞を受賞した。
(2)1910年、日本の鈴木梅太郎は、脚気を予防する有効成分を米ぬかから抽出することに成功し、その栄養素を「オリザニン」と名付けた。これが世界初のビタミンの発見であったが、海外での発表が遅れたために、ビタミンの第一発見者とはみなされなかった。
(3)1911年、脚気(かっけ)の原因を調べていたポーランド出身のカシミール・フンクは、脚気はある栄養素の不足で起こることを発見し、豚肉からその栄養素を抽出することに成功した。
ビタミン発見の世界最初の論文
答えは、(2)です。
1910年(明治43年)12月13日、東京帝国大学の教授であった鈴木梅太郎博士は、脚気予防に有効な成分を米ぬかから分離する方法と、それが新規成分であることを東京化学会で発表し、翌1911年1月の東京化学会誌に論文が掲載されました。これがビタミンの発見についての世界最初の論文でした。
しかし1912年にドイツ語による論文が発表された際、「これは新しい栄養素である」という一文が訳出されず注目されなかったこと、また、1911年12月に、生化学者のカシミール・フンクがビタミンの報告を提出していたことなどから、ビタミンの第一発見者として世界に認められたのはフンクの方でした。
なお、東京化学会での発表から90周年にあたる2000年に、「博士の偉業を後世に伝えていきたい」との思いから、郷里・静岡県の有志を中心に『ビタミンの日』制定委員会が発足し、12月13日が『ビタミンの日』として制定されました。
「ビタミン」の意味
(1)は、「その抽出に成功した」が誤りです。当時はタンパク質・炭水化物・脂質・ミネラルが「4大栄養素」として知られていましたが、ケンブリッジ大学の生化学者フレデリック・G・ホプキンスは、ネズミの飼育実験の結果、牛乳の中に成長に必要な未知の栄養素が存在することを証明しました。これが特定の微量栄養素(後のビタミン)が生命の維持に必須であることの最初の発見であり、その功績によりホプキンスは1929年にオランダの医師クリスティアーン・エイクマンと共にノーベル生理学・医学賞を受賞しました。しかしこの時点では、その栄養素がどのようなものであるかはまだ不明でした。
(3)は、「豚肉からその栄養素を抽出」が誤りです。豚肉はビタミンB1を多く含む食材ですが、フンクがその成分を抽出したのは、鈴木博士と同様、米ぬかからでした。フンクは、エイクマンによる脚気に関する記事を読み、脚気の原因について研究しました。1911年に、脚気が米ぬかに含まれる成分の欠乏によるものであることを発表し、1912年にこれを「生命の(vital)アミン(amine)」という意味で「ビタミン(Vitamine)」と名付け、ビタミン(Vitamin)の最初の発見者とされました。
※「アミン」とは窒素を含む有機化合物のこと
(参考)
[1] 鈴木梅太郎のビタミンB1の発見(東京大学大学院農学生命科学研究科)
http://www.bt.a.u-tokyo.ac.jp/senjin/vol1/
[2] 鈴木梅太郎(牧之原市)
https://www.city.makinohara.shizuoka.jp/soshiki/33/1591.html
[3] 12月13日を『ビタミンの日』に制定(『ビタミンの日』制定委員会)
http://www.vic-japan.gr.jp/vitamin_day/press.html
[4] 脚気の発生(農林水産省)
https://www.maff.go.jp/j/meiji150/eiyo/01.html
[5] 脚気撲滅への挑戦(農林水産省)
https://www.maff.go.jp/j/meiji150/eiyo/02.html