孤独と自然の静けさを表現したカリブー、「カワイイ!」と声を上げたくなるタテゴトアザラシの赤ちゃん
写真展は、計5章の構成。第1章「生命の不思議 極北の動物たちとの出会い」は動物がテーマです。
最も目を奪われた作品が「春のアラスカ北極圏、群れにはぐれてさまようカリブー」でした。星野の代表作と言っていいでしょう。雪が残る平原をゆく1頭を、遠くからとらえた1枚です。
カリブーとは、トナカイのうち、北米大陸に生息する種を指します。群れを作り、食べる草を求めて季節ごとに、長距離を移動するのが特徴です。生まれたばかりの子供は狼やグリズリー(ハイイログマ)に狙われるため、群れることは、それら外敵から身を守る意味もあります。
群れからはぐれて、1頭でさまよう様子からは、不安や孤独といった儚い感情とあわせ、雄大な自然の荘厳な雰囲気が伝わってきます。
一方、水しぶきが飛び、急いで川を渡る黄金色のカリブーの群れを捉えた作品は、野生動物の強い生命力と躍動感を表現した1枚。鋭い爪と歯でサケを捕獲するグリズリーの作品からも、同様に大自然の中で生きる動物たちの逞しさが感じられます。
「カワイイ」と思わず声を出したくなったのが、タテゴトアザラシの赤ちゃんや、黄色い草花の間に佇みながら、頬をいっぱいに膨らますホッキョクジリスのあどけない表情です。屈託のない姿を撮るためには、動物に警戒心を抱かせぬように、時間をかけてじっと待つしかありません。厳しい環境の中に身を置く動物が見せる穏やかな表情には、被写体に敬意を払いながら向き合う写真家の誠実な精神も重なって見えます。
初霜がおりたワイルドベリーや四季の風景
現地を行き来していましたが、1978年になって、アラスカ州中央部の都市フェアバンクスの友人宅の隣地が空いたから住まないかと誘われます。シシュマレフ村と違ってフェアバンクスは北極圏外ですが、それでも冬にはマイナス20度を下回る日もあるほどの厳しい寒さ。ですが、一番好きな季節は「冬」だったそうです。
冬について、星野はこんな言葉を残しています。「もし冬がなければ、春の訪れや、太陽の沈まぬ夏、そして美しい極北の秋にこれほど感謝することはできないだろう」(自著『長い旅の途中』より)。
極北というと1年中雪で覆われているイメージがありますが、春夏秋冬を感じられる景色もあります。春に半年間凍結していた川の水面が割れて氷が流れ、湿原に咲く「ワタスゲ」の花が落ち、ふわふわとした綿毛をつける頃には、大地がのぞきます。秋には紅葉があり、冬にはオーロラが。極北でも四季を実感する瞬間があるのです。
そんな季節のうつろいを活写した作品が「ワイルドベリーの葉に初霜がおりる」。クローバーのような形状の葉が緑、赤、黄色と鮮やかな色彩を帯び、クリスマスを連想させるようなカラフルな装い。白い初霜はイチゴにかかった粉糖のようで、まるでクリスマスケーキのようなかわいらしさです。