かつて「偏差値29」から東大理科二類に合格した伝説の東大生がいました。杉山奈津子さんです。その日から十うん年……現在は、小学生から高校生までを指導する学習塾代表として、心理学から導いた勉強法を提唱しています。その杉山さんが、受験生を持つ親に贈る「言ってはいけない言葉」と「子どもの伸ばす言葉」。近著『東大ママの「子どもを伸ばす言葉」事典』から一部を抜粋し、入学試験シーズン真っただなかに集中連載でお届けします。
心理学の理論「メタ認知」で行動変化をうながす
自分自身の行動を、客観的に見つめて制御することを、心理学では「メタ認知」といいます。何かをしている自分がいて、さらにそれを冷静に眺めている自分が別にいる、という感覚です。
ダイエットをしようと決めたのに、いかにもカロリーが高そうなケーキを食べたいと思ってしまうことは、誰しも経験があるでしょう。そんなとき、メタ認知で自分の状態を冷静に見つめ、「今は一時的な誘惑に流されている状態だ」と把握することで、今にも食べようとしている自分の行動をストップさせることができます。
自分の状態を把握すると、対策が練りやすくなる
メタ認知は、アメリカの心理学者、ジョン・H・フラベル氏が定義した概念が礎となっていますが、近年では心理学の垣根を越えて、教育関係やビジネスの場面でも活用されています。
メタ認知で、自分の現在の状態を把握すると、苦手な分野に対しての対策を練りやすくなります。つまり、自分の行動をコントロールしやすくなるのです。
子どもに向かってただ単に、「これをやりなさい」と命令するだけでは、行動をうながすことはなかなかむずかしいでしょう。そこで、好ましくない行動をしている状態に対して、名前をつけてあげるのです。そうすることで、子どもでも簡単にメタ認知を活用できます。
たとえばオモチャで遊んだあと、もとどおりに片づけをしなくてはいけないのに、「やりたくない」という気持ちに負けて、なかなか箱の中にしまおうとしないとき、「だらだらしてないで、片づけなさい」と伝えても、いまいち効果的ではありません。
そうではなく、「今、あなたの中のナマケモノが出てきているよ」と指摘してみてください。そのゆったりとした動きから怠けている動物の代名詞でもある、「ナマケモノ」という呼び名をつけてしまうのです。
すると子どもは、自分の中にいる横着なナマケモノを客観的に認識し、「今、自分はサボっている状態なのだ」と気がつきやすくなります。それから、「そんなのに負けないように頑張って」と励ましましょう。きっと、片づけをしやすくなるはずです。