現れし「姫路たこ焼きえきそば」は、たこ焼きが3個乗り、カツオ節も入って、あとはネギという布陣である。
まずえきそばの麺をすする。
アリである。
関西風薄口醤油仕立ての昆布ダシが効いたツユを絡めながら、かんすいの香り漂う中華麺が口元に登ってくる。
なんだ中華麺は、ラーメンの油が浮いた濃厚肉系スープでなくとも、いいじゃないか。
和風ツユと中華麺には、食べたこともないのに、妙なノスタルジーがある。次にたこ焼きをちぎり、麺と合わせてみる。
これもアリである。
玉子と粉由来のほのかな甘さが中華麺を抱きしめて、旨い。途中まで食べたところで、禁断の荒技を使ってみた。
添えられたソースをかけたのである。
中華麺、和風ツユ、たこ焼き、ソースと、もうどこの国だかわからない。ソースをかけた瞬間、下品が破裂した。
下品の迫力と申しましょうか、ソースの濃厚な甘酸味がツユに溶け込んで、味にダイナミズムが生まれている。そこを中華麺が「もともと濃い味得意です」と言って通り過ぎる。
これはやられた。
我が家でもかけ蕎麦を作って、ソースをかけたたこ焼きを乗せてみたくなった。
■『えきそば』とは
「えきそば」は、姫路の弁当屋「まねき食品」が営む、老舗格の立ち食いそば屋。
「まねき食品」は、戦後の物資不足に、大掛かりな設備もなしにできるそばとうどんを販売しようとしたが、小麦粉が統制品で入手が難しく、代わりにこんにゃくとそば粉を混ぜて、販売した。
しかしその麺は、時間がたつとのびてしまうのと、腐敗が早かったため、独自で中華麺製造にのりだし、黄色い中華麺に和風ダシという品が生まれたのだという。そうして昭和24(1949)年10月19日に姫路駅ホームにて、“えきそば” と名付け立ち売りを始めたのが、このえきそばの誕生である。
取材・撮影/マッキー牧元