音楽の達人“秘話”

「世界三大ギタリスト」ジェフ・ベックは、クラプトンやペイジとの「差」を気にしていたか 音楽の達人“秘話”ジェフ・ベック(1)

国内外のアーティスト2000人以上にインタビューした音楽評論家の岩田由記夫さんが、とっておきの秘話を交えて、昭和・平成・令和の「音楽の達人たち」の実像に迫ります。「世界三大ギタリスト」。エリック・クラプトン(78)、ジミ…

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国内外のアーティスト2000人以上にインタビューした音楽評論家の岩田由記夫さんが、とっておきの秘話を交えて、昭和・平成・令和の「音楽の達人たち」の実像に迫ります。「世界三大ギタリスト」。エリック・クラプトン(78)、ジミー・ペイジ(79)とともに、こう日本では知られる英国の世界的ギタリスト、ジェフ・ベックが2023年1月10日、亡くなりました。78歳。細菌性髄膜炎に感染したことが原因だといいます。死去のニュースは世界に流れ、英国の公共放送BBCは「史上最も影響を与えたロックギタリストの一人」と報じました。ジェフ・ベックの第1回では、筆者の個人的な音楽体験がつづられます。

2023年1月10日、死去 大きな喪失感

6歳の時、1956年にエルヴィス・プレスリーの「ハートブレイク・ホテル」を聴いて、音楽に夢中になった。ザ・ビートルズ、ザ・ローリング・ストーンズを初めて聴いたのが1964年、14歳の時。人に自慢できるのは、すべてのロック/ポップスを同時代~リアルタイムで聴いてきたことぐらいだ。

若い頃は人の死がどこか遠い。自分の死というものが、まだ遠くにあると思っているからだと思う。大好きだったジャニス・ジョプリン、ジミ・ヘンドリックスがこの世を去ったのは1970年。まだ、自分は20歳だったので、その死はどこか遠くに感じられた。

それが50代半ばを過ぎた辺りから、自分の死がそんなに遠くなくなってから、リアルタイムで聴いてきたミュージシャンの死が、やけに身近に感じられるようになった。同時代を生きた友の死は、自分の中から何かを奪い去ってゆく、そう思うようになった。

2023年1月10日、ジェフ・ベックがこの世を去った。享年78。ジェフ・ベックは、ぼくより6歳年上なので、逝くのも仕方がないと心に言い聞かせたものの喪失感は大きい。心の一部分を切り取られた、そんな思いに囚われた。取り返しのつかないものを失ったと心が告げている。

1968年の『トゥルース』に夢中になった

ジェフ・ベックに初めて夢中になったのは、1968年、18歳の年に『トゥルース(Truth)』というアルバムを聴いた時だ。当時はインターネットはもちろん、FM放送もなく音楽雑誌といえば「ミュージック・ライフ」くらいだった。情報は皆無に等しかった。後に三大ギタリストと言われるエリック・クラプトン、ジェフ・ベック、ジミー・ペイジが同じバンド~ヤードバーズにかつて在籍していたということも知らなかった。まだザ・ビートルズの時代で、日本ではグループ・サウンズ~GSが人気だった。

どこでどうやってジェフ・ベックにたどり着いたか記憶は定かでないが、エリック・クラプトンはすでにクリームで大成功を収めていて、その記事からジェフ・ベックを知ったのだと思う。『トゥルース』を購入した記憶はしっかりとしている。横浜の大桟橋のたもと、貿易会館の中にあった駐留米軍のPX(売店)で買ったのだ。当時、1ドルは360円。アルバムはどれも約10ドル、日本円にしたら高価だった。PXは日本人は入れないが、遊び仲間として知り合った米兵が中に入れてくれていた。

『トゥルース』で何が驚いたかというと、まずはジェフ・ベックのギタープレイだった。次いでヴォーカリスト、当時日本ではまったく無名のロッド・スチュアートの素晴らしさに魅せられた。その頃の日本ではほとんどブームになっていなかったが、アメリカやイギリスでは音楽シーンの中心になり始めたロックというものを、ぼくに目覚めさせてくれたアルバムのひとつ、それが『トゥルース』だった。続く1969年の『ベック・オラ(Beck-Ola)』もリアルタイムで聴いて、ぼくは完全にジェフ・ベックのギタープレイの虜となった。

ジェフ・ベックの名盤の数々。上段左から時計回りに、『ベック・オラ』、『トゥルース』、ジョニー・デップと共演した『18』、『ブロウ・バイ・ブロウ』

クラプトン、ペイジに比べ、日本での知名度は低かった

今ではロック・ファンの間で名盤とされるこの2枚だが、共に全米アルバム・チャートでは15位が最高位。日本ではごく一部の音楽ファン以外に存在は知られていなかった。クリームですでに全米No.1の座を射止めていたエリック・クラプトン、デビュー作でいきなり全米トップ10入りしたレッド・ツェッペリンのジミー・ペイジと比べるとジェフ・ベックの知名度はここ日本ではまだまだ低かった。

仕事柄、手元に置いているジェフ・ベック関連の書籍を読むと、ジェフ・ベック自身もエリック・クラプトンやジミー・ペイジにあけられた差を気にしていたことが伝わる。彼らの音源がすべて出揃い、客観的に評価ができる今、彼らのアルバムを聴き比べるとやはりベックの初期の2枚は完成度の高さから言えばクリームやレッド・ツェッペリンのアルバムに比べて、まとまりという点で劣るのが分かる。

その荒々しさ、生々しさ故にぼくは『トゥルース』『ベック・オラ』を愛するけれどジェフ・ベックが一般の音楽ファンに知られるようになるには、今少し時間が必要だった。

1975年、ジェフ・ベックは『ブロウ・バイ・ブロウ(Blow By Blow)』を発表した。このアルバムは世界的な大ヒットとなり、今まで彼の名をよく知らなかった世界中の音楽ファンの心を掴む。そして真のギターヒーローの座を射止めたのだった。

ジェフ・ベックの名盤の数々

岩田由記夫
1950年、東京生まれ。音楽評論家、オーディオライター、プロデューサー。70年代半ばから講談社の雑誌などで活躍。長く、オーディオ・音楽誌を中心に執筆活動を続け、取材した国内外のアーティストは2000人以上。マドンナ、スティング、キース・リチャーズ、リンゴ・スター、ロバート・プラント、大滝詠一、忌野清志郎、桑田佳祐、山下達郎、竹内まりや、細野晴臣……と、音楽史に名を刻む多くのレジェンドたちと会ってきた。FMラジオの構成や選曲も手掛け、パーソナリティーも担当。プロデューサーとして携わったレコードやCDも数多い。著書に『ぼくが出会った素晴らしきミュージシャンたち』など。 電子書籍『ROCK絶対名曲秘話』を刊行中。東京・大岡山のライブハウス「Goodstock Tokyo(グッドストックトーキョー)」で、貴重なアナログ・レコードをLINN(リン)の約400万円のプレーヤーなどハイエンドのオーディオシステムで聴く『レコードの達人』を偶数月に開催中。最新刊は『岩田由記夫のRock & Pop オーディオ入門 音楽とオーディオの新発見(ONTOMO MOOK)』(音楽之友社・1980円)。

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