湯と食事と緑に再訪を誓う湯旅
甲府行きの特急に乗り込んで窓の外を眺めていると、どんどん緑が濃くなっていることに気づく。遠くにあった山々は知らぬ間に線路の隣に迫っていて、その景色の変化に遠くまで来たものだと思う。電車が時折川を越えるようになったら、もうそこは山梨県だ。新宿から約1時間半。山梨県・甲州市の塩山駅で降りたのは、この地に素晴らしき日帰り温泉があると聞いてのこと。
駅からタクシーで10分ほど行くとお目当ての『はやぶさ温泉』に到着だ。早速浴場に直行してびっくり。湯船から湯が溢れ出し足元に川のようなせせらぎを作っているではないか。え、いいのかしら!?なんと言ったってここの湯は源泉かけ流し。加水も加熱も消毒剤もなし、循環さえもさせないという正真正銘湧き出たまんまのお湯なのだ。
そんな源泉を惜しげもなく流し続けている様子に、もったいない心をくすぐられつつも、そろりと湯に浸かっててみる。ああぁぁ〜〜!なんていい湯加減!アルカリ性単純泉のお湯はちょうど40度。皮膚に馴染む温度感はまるで優しさに包まれているよう。さらに鯉の口からこんこんと流れ続ける新鮮な源泉が湯船に波をつくり身体を揺らすのがまた心地いい。同温泉の女将さんの話では、湧出量はバルブを全開にすると毎分200リットルを超え測定不能なほど。
なんでも創業者は当初、薬草風呂にしようと温泉を掘削したそうだが、あまりの湯量の豊富さにそれを取りやめ、源泉かけ流しの内湯と露天風呂を作ったそうな。pH9.9度という高アルカリ性のお湯は疲労回復や腰痛に効果があるほか、成分的にはマイルドで人間が飲むこともできる。地下1000メートルでミネラルを蓄えた源泉でお茶を淹れると、柔らかな口当たりでおいしく健康にもいいという。
現在は感染症対策のために中止しているが、かつては浴場内にコップが置かれて温泉が飲めるようになっており「ここの温泉を飲むと高齢者は足腰が丈夫に、若い人はきれいになるよ」と入浴客にすすめる名物おばあちゃん(地元の常連さん)がいたというエピソードもあるくらいだ。実はお料理にも源泉が使われているから、お湯に浸かった後は畳敷の大広間で腹ごしらえするのがおすすめ。外からも中からも源泉効果を取り入れることができるのだ。
源泉手もみラーメン(塩) 900円
大広間の前には京都をイメージして造られたお庭が。のんびりとした雰囲気の中で、緑に囲まれぼーっとしていると「大らかなところがいい」とこの温泉をすすめてくれた人の言葉が思い出される。次はいつ来ようか。気づけばそんなことを考えていた。
撮影/鵜澤昭彦、取材/藤沢緑彩
※「一日7000トンもの源泉が湧き出す山梨の日帰り温泉」と見出しと文中に記載していましたが、「一日7000トン」は「一日700トン」の誤りでした。訂正して、お詫びいたします。
※2023年6月号発売時点の情報です。
※全国での新型コロナウイルスの感染拡大等により、営業時間やメニュー等に変更が生じる可能性があるため、訪問の際は、事前に各お店に最新情報をご確認くださいますようお願いいたします。また、各自治体の情報をご参照の上、充分な感染症対策を実施し、適切なご利用をお願いいたします。
※写真や情報は当時の内容ですので、最新の情報とは異なる可能性があります。必ず事前にご確認の上ご利用ください。