炒飯を別物に生まれ変わらせるスープの魔力
旨みとコクの塊のようなスープをまとった麺をすすってみる。台湾ラーメンゆえに辛さはあるものの、やさしい辛み。むしろ、スープの旨みを引き立てるアクセントになっている。激辛をウリにしている台湾ラーメンよりもこちらの方が料理としての完成度は高い。
味の余韻が残るうちに炒飯を頬張ってみる。おーっ! 複雑な味わいの炒飯にニンニクのパンチが加わって、さらに旨くなるではないか! 麺を食べ尽くした後、丼の底に沈んだ台湾ミンチをレンゲですくって炒飯と同時に食べても旨かった。いちばん驚いたのは、スープに浮かぶニラと炒飯の同時食い。ニラのコクと食感が炒飯を別物にしたのだ。
一方、編集部Eが注文した醤油ラーメンがこれ。澄んだスープにチャーシューとモヤシ、海苔、ネギの、いかにも中華屋のラーメン。編集Eもスープの余韻とともに夢中で炒飯を頬張っていた。
「ナガヤさんが記事に書いていた通り、スープを飲んだ後の炒飯は旨い」と感心しきり。よほど旨かったのか、スープまで完食していた。
その後、渡邊さんは1994年に『眞弓苑』から独立して名古屋駅の近くに『中国料理 千龍』を開店させた。一方、蔡さんが千種区神田町に『中国料理 龍美』の1号店を創業したのは、それから5年後。渡邊さんも蔡さんも『眞弓苑』で好評を博したセットをメニューに取り入れた。
渡邊さんは2011年に、蔡さんは2019年にこの世を去ったが、日本と中国のふたりの料理人が作り上げたセットメニューと台湾ラーメンは、今も多くの人々のお腹と心を満たしているのだ。
取材・撮影/永谷正樹