下町風情が残る街並みにおしゃれな飲食店などが共存する東京・清澄白河に、2023年9月1日、一軒のベーカリー&レストランがオープンしました。店名の頭文字「F」を植物で模った壁面が印象的な3階建ての建物には、飲食店という括り…
画像ギャラリー下町風情が残る街並みにおしゃれな飲食店などが共存する東京・清澄白河に、2023年9月1日、一軒のベーカリー&レストランがオープンしました。店名の頭文字「F」を植物で模った壁面が印象的な3階建ての建物には、飲食店という括りでは収まりきらない発信拠点の意味があるようです。千葉市の砂糖メーカー・大東製糖が手掛ける同店『Farm to Me SUGAR F ACTORY(ファーム・トゥー・ミー・シュガー・ファクトリー)』をご紹介します。
壁に植物で「Farm to Me」の「F」の文字
東京都江東区常盤の隅田川沿いにオープンしたベーカリー&レストラン『Farm to Me SUGAR F ACTORY』は、東京メトロ半蔵門線と都営地下鉄大江戸線の清澄白河駅から歩いて約6分ほどの隅田川沿いにあります。お店までの道のりには、角打ちできる老舗酒屋やハンバーガー店など新旧の店も多く点在しており、人の交流や文化が日常的に継承されている様子をうかがわせます。近隣には、芭蕉記念館や芭蕉稲荷神社(深川芭蕉庵跡)など、江戸前期の俳人・松尾芭蕉(1644~94年)ゆかりのスポットもあるので、散策も楽しめそうです。
お店の目印になるのは、建物の壁面の植物です。植物は、四季ごとに変わる葉の色や、咲いた花を愛でることができるそうです。店内は、1階にベーカリー、2階にキッチンラボ、3階がレストランの3フロアに分かれています。
お店を運営するのは、千葉市の砂糖メーカー・大東製糖です。2023年8月31日に行われた内覧会では、大東製糖代表取締役・木村成克さんが店内を案内してくれました。同社は、2007年11月に大丸東京店にベーカリー『カーラ・アウレリア』をオープン(2023年1月に閉店)。同店では、当時、精製したグラニュー糖や上白糖を原料に使うのが一般的だったというパンに、さとうきびのミネラルなどを豊富に含みコクとやさしい甘さが特徴の含蜜糖(がんみつとう/黒糖、きび糖などミネラルなどを豊富に含む糖蜜を結晶と分離せずにつくる砂糖の総称)を使用し、製パン・製菓業界にも大きな反響を呼んだそうです。
お店をオープンするきっかけとなった理由のひとつとして木村さんが話してくれたのは、さとうきびの自社農園がある種子島に8年間毎月行き来する中、地元で獲れたばかりの鶏で作った料理を食べた時の話です。
「どんな人が、どんな想いを持って、どんなふうに作っているかがわかって、そのことを思いながら食べるとおいしく感じるし、安心することに気づきました。よく考えると、コンビニの弁当を食べていても、誰が作っているのかどういう思いかもわからない。小さな範囲でもいいので、自分の見える範囲で食を循環させていくことはできないかという思いで作ったのがこのお店です」
種子島に住んでいる人たちは、ものや情報の流れが見えることで安心して物事を選択することができ、自己肯定感の強い暮らしをしている人たちが多くいることに気付いたといいます。日々、さまざまな情報が溢れる今だからこそ、「自分の周りのものが可視化され、理解ができ、自己肯定できる社会を実現したい」。「自然・地域・仲間とのつながりを認識することで、自分を肯定し、豊かな人生の輪を広げられる」、そんな場所になることを目指しているそうです。
また、話の中で「砂糖屋は、ただ砂糖を売るだけではなく、“食文化を提案する”ことをしていきたい」という言葉が印象的でした。「時間の流れや季節を感じられるように」と選んだ隅田川のほとりからは、川の流れや空、船などをゆったりと眺められ、開放的な雰囲気に心まで癒されそうです。
建築家・新居千秋氏による「バイオフィリア」を取り入れた建物
建物は、「自然や生物同士の結びつきを求める生命愛“バイオフィリア”」がテーマになっています。1階のベーカリーの天井は柔らかなパンをイメージ、2階の個室は多方向から差し込む反射光を活かして二十四節気を表現するなど、日本を代表する建築家・新居千秋(あらい・ちあき)さんと大東製糖代表の共作となっています。
建物の2階はキッチンラボになっていて、スイーツなどを製造する部屋や、缶詰加工できるスペースがあります。缶詰工場のような設備を作った理由のひとつには、百貨店では実現できなかった思いがあるようです。
「店ではドイツパンも提供するのですが、百貨店の時は、お客様に(“本場のパン”に近づけた尖った商品より)もう少しマイルドなものを求められたので、ライ麦の割合を抑えたものを提供していました。ライ麦100%のパンには、サーモンやチーズだったり、おいしく合わせるペアリングがあってドイツで食べられています。ここでは、例えば、カンパーニュ(田舎パン)にあう「煮込み」を上にあるキッチンで作って缶詰にします。それをパンと一緒に買って帰ることで、パンとのマリアージュを家庭でも楽しんでもらいたいと思っています」
キッチンラボの隣にある個室は、スタジオになっていて今後、食育セミナーや子どもたちも参加できる料理教室なども行われる予定です。
大丸東京店で人気を博した『カーラ・アウレリア』を一新
『カーラ・アウレリア』は、「食べログユーザーから高い評価を集めた100店を選出する『食べログ 百名店』」に選ばれたこともある実力店。このお店を牽引してきた藤枝敏郎さんは、引き続き『Farm to Me SUGAR F ACTORY』のベーカリーシェフを務めており、ファン待望のオープンとなります。
「『カーラ・アウレリア』では、含蜜糖の良さを生かしたパン作りをしてきましたが、今回は、食の循環というところを目指して産地を訪問して素材選びにもこだわり、ライ麦に至るまで国産小麦を使用しています。なるべく添加物を使用していない材料でよりシンプルに、料理と一緒に食べておいしいパン作りをしました」と藤枝シェフ。
オープン前の内覧会で5種類のパンを試食しましたが、今まで食べたことのないほどのもちもち感に驚いたのは、焙煎大麦粉を使用し、通常より多く水分を含んだ「高加水パン」です。なんと油脂は不使用。血糖値の上昇が緩やかな低GIの砂糖と大麦のコンビは、噛むほどに自然な甘みとほのかな香ばしさがどこか懐かしく新しい食感です。ベタつきのない優しい甘さは、体に自然と溶け合うような魅力があります。
ライ麦100%のパンは、酸味がマイルドで食べやすく、日常の食事パンとして和惣菜にも合いそうです。ベーカリーには、クロワッサンやスイーツ系のパンも並びます。購入したパンは、屋上庭園で隅田川を眺めながら食べることができるそうです。
開放的な空間とシンプルでヘルシーな料理も魅力
レストランは、山形県鶴岡市で人気の地産地消のイタリアン『アル・ケッチァーノ』の奥田政行シェフが監修を務めます。現場を仕切るシェフは、奥田シェフのお店で研磨を積んだ相良(さがら)忠政シェフです。フロアの席数は38席で、個室も8席あります。
レストランのテーマは「パンと料理のマリアージュ」。ランチメニューは、パンに合うジャムやチーズなどが乗ったスプレッド6種と、サラダ、スープ、5つの中から2種選べる料理がついたセットが2200円。ディナーは、スプレッド6種、サラダ、スープ、シェフおまかせの前菜2種、肉か魚が選べ、デザート、食後の沖縄紅茶がついて5280円(肉·魚両方で7150円)です。コース料理を注文すれば、切り立てのパンが食べ放題。アラカルトの料理も充実しています。
「スプレッドの食べ方でおすすめは、ブリオッシュに、リコッタチーズとルバーブジャムを一緒に合わせてみてください。よりいっそう美味しくなります」と、相良シェフ。ブリオッシュの生地は歯切れが良く、変にバターの風味が効きすぎていないので、ジャムの酸味や風味、チーズのなめらかさが引き立ちます。
レストランでは、料理やパンに合うオリジナル紅茶や、種子島のさとうきびを原料にしたラム酒なども楽しめます。テーブルには、「Farm to Me JOURNAL」という、パンの特徴や相性の良い料理との組み合わせなどの情報がわかる新聞のようなペーパーがあるので、行くたびに新たな発見があり、週末をゆっくり過ごしたい時の穴場スポットとしても注目です。
『Farm to Me SUGAR F ACTORY』
【住所】東京都江東区常盤1-4-4
【営業時間】ベーカリー:8時半~18時/レストラン:ランチ11時~16時、ディナー18時~21時
【休日】ベーカリー:火曜/レストラン:火、水曜日
【交通】地下鉄清澄白河駅から徒歩6分、森下駅から徒歩7分
※2023年8月31日時点の情報です。
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