「受験は競争、受験生もアスリート」。トレーナー的な観点から、理にかなった自学自習で結果を出す「独学力」を、エピソードを交えながら手ほどきします。名付けて「トレーニング受験理論」。その算数・数学編です。第20回は、物事をみる視点についての考察です。「鳥の目」と「虫の目」。二つの異なる見え方から、効果的な勉強方法に迫ります。
ものごとを把握するのに役立つ視点
会社勤めで調査研究業務をしていた頃、先輩から教わり、その後仕事において大いに役立った視点があります。それは、「『鳥の目』と『虫の目』の両方の視点でものごとを見る」というものです。
『鳥の目』とは、空を飛ぶ鳥が上空から地上を見るような視点でものごとを全体的に見渡す見方です。俯瞰(ふかん)や鳥瞰(ちょうかん)と言われる視点です。一方、『虫の目』とは、地を這う虫のような視点で、細部を詳細に見る見方です。この両方の目を持つことで、ものごとを広く深く把握することが出来るのです。
この視点は、その後も仕事をする上で大いに役立ちました。これはどの分野においても役立つ視点で、とくにビジネスや経済の分野でよく耳にします。そもそも経済学自体が、鳥の目視点の「マクロ経済学」と、虫の目視点の「ミクロ経済学」という大きな2つの分野に分かれていることからも、このような視点の有効性がうかがい知れます。
「鳥の目虫の目」で勉強の仕方が変わる
会社を退職して小中高生の学習指導・受験指導をするようになったとき、自分自身の勉強の仕方が学生時代とは違っていることに気づきました。社会人となって業務で身に付いたスキルが、勉強面に役立っていたのです。そのようなスキルの一つが、「鳥の目と虫の目で見る」という視点でした。
特に数学では、高校までの学生時代は、様々な問題を解くことが優先し、解いた問題の全体の中での位置づけや、相互の関連などにあまり注意が払われていませんでした。つまり、虫の目で問題に取り組み、鳥の目の視点がなかったのです。しかし、鳥の目で眺めてみると、その問題がどのような分野の問題で、どのような道具(定理、公式、典型的解法など)が使えるか、ほかにどのような糸口があるかなど、考える筋道が以前より明瞭になったのです。そして鳥の目と虫の目の両方の視点を示しながら生徒に教えるようにすると、生徒の理解度や定着度が高まるようになりました。