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アマにやさしくプロにきびしいシステム

さて、紺碧の南太平洋に浮かぶエメラルドさながらの島は、ご存知の通りフランス領である。従って「ニューカレドニア・オープン」といっても、実際には準ナショナル大会と呼ぶのが正しいように思うが、しかし、どうあれ人口19万7000人の堂々たる自治島であり、気分としてはナショナル大会なのである。

事前にエントリーだけは済ませておいたが、いざ試合会場のダンベア・ゴルフクラブに赴き、申し込み金を支払う段になって、あまりの安さによろめいてしまった。

「1万5000パシフィックフラン(邦貨約1万8000円)ちょうだいします」

「それは1日分ですか?」

「いいえ。まずプロアマ戦の出場料、前夜祭の飲食、ホテルとコースの往復専用バス5日分、全試合中のサンドイッチと飲み物、そして5日間のグリーンフィーも含まれています」

「つまり、最初から最後まで一切の費用が含まれて1万5000?」

「はい。選手の皆さんは手ぶらでお越しください」

ウワォ! 日割りにして3600円ではないか。変態ゴルフ狂国ニッポンだったら1回の練習代にすぎない金額。さらにやさしいのがトーナメントの仕組みである。

「最初の3日間が予選ラウンド、といってもプロは別格、全員最終日までプレーが約束されます。予選ラウンドはアマの上位10人を選ぶためです」

つまりプロからすると、3日間もアマと組まなければならない。7ヵ国から集まった約100人のアマは、各自のハンディに応じてプレーすればいいわけだから、これは楽である。一方のプロにしてみると、連日チョロ、ザックリ、スライスにフック、果ては川底の球拾いまでつき合いながら、スコアメイクにも励む必要がある。

これはプロにとって迷惑千万、気が散ることおびただしい話である。極論すると、このトーナメントはアマにやさしくプロにきびしいシステムだが、これこそ「オープン競技」の原点、稀に健全な思想がニューカレドニアに生き残っていたのだ。

ゲームの運営もまた、特筆すべき善意に溢れていた。主催コースのダンベアGCはむろんのこと、他の2コースからも会員が応援に回り、たとえば早朝7時のスタートに合わせて、大勢のボランティアが「フォアキャディ」の位置につく。そうした場所の多くは水辺と深い森の界隈であって、蚊の襲撃も半端ではない。

あるいはゲームの進行係、通過チームのチェック係、レフリー、スコア集計係、各方面のオフィシャル、誰もが汗まみれのボランティア活動だ。

ここには営利目的の「トーナメント屋」が1人も存在しない、そう思うだけで吹く風、広大な緑、流れる雲が一層新鮮に感じられる。

近隣諸国は言うに及ばず、遠くはアメリカから一昼夜かけて馳せ参じた何人かの若手プロもいて、その賑やかなこと。彼らにしてみると、そこにトーナメントがあれば地の果ても厭わない覚悟であり、チャンスをつかんで次の飛躍の芽にしようと虎視眈々、涙ぐましいばかりの努力が感じられる。

経済的に恵まれた日本のプロなんぞ、ぬるま湯につかる隠居みたいなものだ。

一方、われらアマチュアにも苦労がないわけではない。1番ティに待ち受けるのは日本語の通じない巨漢ばかり。お互いに簡略な愛称を告げ合って握手したあと、延々18番まで国際親善も重要なテーマ、それなりに気を使うのである。

このとき、グリーン上に立ち止まってスコアの記入に熱中する行為は、国際的な恥というもの。これは世界のいたるところで耳にする風評だが、日本人はスコアにしか関心がないと見られている。

「いくらスコアに固執しても、アマチュアの場合、80から100のあいだに決まっている。スコアの99パーセントがここに集中するのがトーナメントのキマリ。だとしたら、もっと雰囲気を楽しむなり、新しい友人を作るなり、スコアカードから顔を上げて欲しいと思うね」

現地のジャーナリストから、胸に刺さる忠告を頂戴した。わが国に蔓延する「スコア至上主義」が、瘦せたゴルファーを量産する。

さて、私の成績だが、もちろんキマリに従って99パーセントの範疇に納まり、満足が手土産、気分は来年に飛んでいる。

(本文は、2000年5月15日刊『ナイス・ボギー』講談社文庫からの抜粋です)

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夏坂健

1936年、横浜市生まれ。2000年1月19日逝去。共同通信記者、月刊ペン編集長を経て、作家活動に入る。食、ゴルフのエッセイ、ノンフィクション、翻訳に多くの名著を残した。毎年フランスで開催される「ゴルフ・サミット」に唯一アジアから招聘された。また、トップ・アマチュア・ゴルファーとしても活躍した。著書に、『ゴルファーを笑え!』『地球ゴルフ倶楽部』『ゴルフを以って人を観ん』『ゴルフの神様』『ゴルフの処方箋』『美食・大食家びっくり事典』など多数。

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おとなの週末Web編集部 今井
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