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食品ロスを再解釈した料理からコースがスタート

例えば、コースの初めに登場する「ウェルカムブイヨン」は、その日の料理に使用する野菜の皮や葉、茎から出る出汁で作られたもの。食品ロスを見直し、生命の種に変えるという試みを実践することで『CYCLE』の哲学を体現した一皿だ。金木犀や柚子の豊かな香りと、野菜本来の風味を生かした滋味深い味わいに、思わずほっとさせられる。

廃棄されるはずだった茎や根を生かした「ウェルカムブイヨン」

「根」「葉」「花」「果実」と名付けられた「種」のサイクルを実感できる4種のタパスにもぜひ注目してみてほしい。コクのあるオニオンピューレやアンチョビをチューブ状の生地に詰めた「根」は、植物の「誕生」を再現。新鮮な牡蠣にエストラゴンを合わせたカレー風味のコロッケは、「葉」と名付けられ、植物の「成長」を想起させる。

炙りシメ鯖にりんごやエシャロットクリーム、菊の花のピクルスをあしらった「花」は、その生き生きとした佇まいが「再生」を感じさせ、栗のはちみつを使ったフィナンシェが「果実」として「再誕生」をイメージさせてくれる。

「種」のサイクルを表現した、ユニークな4皿のタパス

大胆な表現で感動を呼んだ「ビーツのカルパッチョ」

そして、同店を語るうえで外せないのが『ミラズール』を象徴する看板料理の「ビーツのカルパッチョ」だ。ビーツ、クリーム、キャビアのみを使用したメニューは食材の種類だけでなく、調理方法も至ってシンプル。塩竈焼きすることでうま味がぎゅっと凝縮されたビーツに、ミルキーなクリームと芳醇な味わいのオシトラエキャビアを合わせ、食材そのもののよさを大胆に引き出している。

複雑な調理方法で勝負する料理も多い中、シンプルなアプローチでビーツの価値を高め、フランスで大きな感動を生んだ一皿。肉の大量消費社会へのアンチテーゼとも言える革新的な作品だ。

『ミラズール』のシグネチャーとして人気を誇る「ビーツのカルパッチョ」

「薔薇」と名づけられたメインディッシュは、同店と結びつきの強い、着色料・香料無添加の食用薔薇を販売する「奥出雲薔薇園」(島根県太田市)の香りからインスピレーションを得て作られた。

北海道の蝦夷鹿にリンゴと薔薇の香りを合わせたこちらは、通常はクラシックな重いソースで食べることの多い鹿に、酸味と甘みを兼ね備えたリンゴのソースや花の高貴な香りを組み合わせることで、最後まで軽やかに締めくくれる逸品となっている。

メインディッシュの「薔薇」(画像提供/グラナダ)

最後にコラグレコ氏からヘッドシェフに任命された宮本シェフに今後の展望を聞くと、『ミラズール』のことを引きながら次のように説明してくれた。『ミラズール』は、地中海に面した風光明媚な南仏の町「マントン」にある。

「食品の無駄を出さないレシピの開発、使い捨てのプラスチック製品の排除、店の消耗品は環境に配慮したものを選ぶなど、すでに取り組んでいることをこれからも継続していきたいですね。そして、フランスの『ミラズール』ではいつも自家農園から料理が始まっていました。日々変わる野菜の状況からメニューを考えるので、僕たちは野菜を起点に肉や魚などのメニューを考えるようにしているところが特徴的だと思っています。『CYCLE』でも農園を設けたので、今後も自ら畑に入り、変化を見ながら季節に寄り添った料理を提供していきたいです」

「セリのエマルジョン」

「肉」の大量消費は環境に大きな負担をかけることで知られている。そんな「肉」に重きを置くのではなく、自ら畑に身を置き、「野菜」を中心に料理を考えていく『CYCLE』のシェフたち。先進的な循環型レストランが示す姿は、変化し続ける今後のレストランシーンに大きな影響を与えていくに違いない。

文・写真/中村友美

【CYCLE(スィークル)】

[公式ホームページ]cyclerestaurant.com
[住所]東京都千代田区大手町1-2-1
[電話]03-6551-2885
[営業時間]17時~23時 (ラストオーダー20時)、週末・祝日11時半~15時(同13時)、18時~23時(同20時)
[休日]月曜日
[交通]地下鉄千代田線・丸ノ内線・半蔵門線・東西線・都営地下鉄三田線「大手町」駅C4、C5出口から直結

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中村友美
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