エメラルドグリーンの海をメインとしてマリンアクティビティやグルメ、フォトジェニックなスポットを巡る沖縄観光が、近年、変わりつつあります。沖縄の歴史や文化にふれ、伝統工芸を体験したり、海洋ゴミから環境問題をより身近に考えたり、暮らすように旅するスタイルが注目を浴びています。冬の沖縄だからこそ再発見できる、その魅力に迫ります。
500年前、王や士族に愛された「琉球びんがた」艶やかな絵柄に魅了
「工芸の宝庫」とも称される沖縄には、「やちむん」と呼ばれる焼物、琉球漆器、三線(さんしん)など経済産業省が指定する「伝統的工芸品」が16品目もあります。この数は、首位東京、2位京都に次ぎ新潟と並んで3番目の多さです。16品目のうち実に13品を染めと織りが占めています。
中でも筆者がひかれたのが、艶やかな色彩で花鳥風月などが精緻に描かれた沖縄唯一の染物「琉球びんがた(紅型)」です。「紅」は色、「型」は模様を表します。
ウチナーンチュ(沖縄県民)には主に着物や帯などで馴染みのある柄ですが、古典柄ばかりでなくモダンにアレンジされ、バッグなどの小物やタペストリーといったインテリア、アート作品として日常を彩るハイセンスな絵柄も多く魅了されます。
琉球びんがた事業協同組合によると、琉球びんがたの起源は14~15世紀頃。琉球王朝時代に交易が盛んだった中国やアジア各国と取引された品々から学んだ技法が取り入れられて誕生したと言われています。琉球王朝の保護のもと、多くが王や士族に重宝されてきました。
500年以上の歴史の中で、薩摩藩の侵攻や明治政府による琉球王朝の解体、太平洋戦争の戦火によって消滅や衰退の危機に見舞われたものの、多くの人々の手で大切に守られ紡がれてきました。
そのような格調高い琉球びんがたを、自分の手で染められると聞いてぜひと訪ねた先は「首里染織館suikara(すいから)」(那覇市)。琉球びんがたと共に首里に伝わる伝統工芸「首里織」の技法を次世代に継承し、その魅力を発信する施設として、2022年4月にオープンしました。
美しい手仕事のコツは「美(ちゅ)らくちばやく」
まずは、オウムや首里城などが描かれた4種類の図案の中から、トートバッグの型紙を選びます。筆者が選んだのは、沖縄県の蝶「オオゴマダラ」と流水花が大胆にデザインされたもの。仕上がり見本の美しさに圧倒され「果たしてできあがるのか」と不安に襲われながら、早速、筆をとって色付けしていきます。
型紙の上には防染のため、もち粉、糠(ぬか)、塩を混ぜた糊が予め施されており、見本を参考に色をのせていきます。鉱石を混ぜた顔料をよくかき混ぜ筆を立てて、布に刷り込むようにのせるのがポイント。顔料は紫外線に強く、鮮やかに発色するのも沖縄ならでは。
塗った後は、こまめにドライヤーで乾かしながら2度塗りでしっかり色を入れます。所々難航しながらも、無心で打ち込む手つきを見て、指導員から「まるで職人さんのよう」とうれしい一言。やる気が出てきます。
さらに刷毛を使って隈取りという仕上げ作業に移ります。「隈取りこそ、琉球びんがたの特徴」とされるだけあって、ぼかし加減が難しく、しばし作業をする手が止まってしまいます。
見かねた琉球びんがた事業協同組合の宮城守男理事長から「『美(ちゅ)らくちばやく』を念頭にやりましょう。『美しく手早く』という手仕事のコツのような言葉が沖縄にあるんです。手早く大胆にやってみましょう」とアドバイス。
恐る恐るぼかしていた刷毛を、思い切って左右に小刻みに動かすと、良い具合に仕上がりました。
実は、トートはこの場で完成できません。帰宅してから、教えられた工程に従って乾燥させ、ぬるま湯で糊を落とし陰干しして乾燥させたらできあがり。無事、格調高い琉球びんがたを自分の手で仕上げられたことに感無量。旅の余韻に浸りながら、美しい手仕事の数々に思いをはせます。
同館の広報担当、いのうえちずさんは「琉球びんがたや首里織が生まれたこの首里で体験を通して、伝統を守り継承しながら、さらに発展させる職人の心意気にもふれてほしい」と話します。