旬の素材と器で季節を映し心まで潤すのだ
和食でスープと言えば汁物。華やかな懐石料理のすまし汁からお味噌汁まで、世界に自慢できる日本の汁物はバリエーションも多いのだ。
例えば、おダシに塩と醤油で味付けたものは「すまし汁」、魚介から出たダシに塩だけで味をつけると「潮汁」と呼ばれる。すりおろした大根やかぶを汁に溶いたものは「みぞれ汁」。みぞれ雪に例えちゃうところなんか、麗しき日本文化ですなぁ。
で、他の野菜や魚介、豆腐なんかの時はどうかというと「すり流し」という。よく枝豆のすり流しとか見かけませんか?あれをポタージュスープの真似っこと思うなかれ、実は純和風なんです。そして味噌を溶いたものはご存じ「味噌汁」。
ついでにちょこっと、汁物の構成も紐解いてみよう。汁物は「椀種(わんだね)」、「椀づま」、「吸い口(すいくち)」、「吸い地(すいじ)」の4つからなる。
中身の主役となるのは「椀種」。魚などを使うことが多く、焼いたり、しんじょうにして使うこともある。この「椀種」を引き立てるのが「椀づま」。季節の野菜などで、彩りを足す役割もあるという。香り付けや薬味となるのは「吸い口」。お椀の一番上に木の芽や柚子などをのせることで、ふたを開けた時に爽やかな香気を振りまくのだ。となると残る「吸い地」は、土台となる汁のことである。
そしてもうひとつの汁物のキーワードは器だ。漆塗りのお椀には絵の描かれたものが多くあり、季節限定のものも多い。またセットですべて絵が違う“絵がわり”など遊び心を盛り込んだものもある。こうしたお椀(器)の豊かな文化も日本独自のお楽しみといえる。
でも日本が誇るごちそうスープ(汁物)は、気軽に食べられる店が意外と少ない。たいがいは懐石料理のコースなどに組み込まれているからだ。そこで単品でも気軽に食べられる店を探してみた。
荒木町にある『燗コーヒー藤々』では季節のお椀を2種類も品書きにのせている。必ず注文が入ってからダシを引くというだけに、ふたを開けた時のダシの香りも格別だ。器好きでもあり、お椀の収集にも目がないそう。
「季節のお椀を使うのはもちろん、同じグループの人に違うお椀を出して楽しんでもらうこともあります」(藤極さん)という粋な計らいも。
新宿三丁目にある『つきよい』も、和食を気軽に食べて欲しいと、本格的なお椀を単品メニューで出す。「お椀はお酒のアテになるように、少し味を強めに仕上げています。まず最初に飲んでもらうと、胃が温まっていいですね。とはいえ〆に飲む方も多いのですけど(笑)」(吉田さん)。
体も温まる汁物は、飲む前に飲めば悪酔い防止の効果もありだ!
撮影/貝塚隆、取材/岡本ジュン
※2024年3月号発売時点の情報です。
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