いなり寿司と狐のおいしい関係
江戸時代後期、いなり寿司は屋台で買える庶民の味だった。一方で、稲荷神へのお供物もあったそうな。「おいしいから神様にもおすそわけしよう!」と捧げるようになったわけではない。いなり寿司と狐には深ーい関係がある。
いなり寿司は、油揚げに米を詰めて稲荷神に捧げたのが始まりだ。そこから“いなり”の名を冠するようになった……というわけだが、そもそもなんで油揚げだったのかといえば稲荷神の使いである狐の好物が油揚げと考えられてきたから。
たぶん某キツネ村に油揚げを持っていっても見向きもされないだろうが、民話では油揚げを持って夜道を歩いていると狐に身ぐるみ剥がされる、なんて話もある。
濡れ衣狐のために弁解すると、実際の好物は小動物。害獣を退治してくれる狐に感謝して狐の巣穴に小動物の素揚げを供えていたところ、「仏教的にやっぱり殺生はいかん」ということで代わりに油揚げになったらしい。
もしかしたらこの偶然がなければいなり寿司は小動物の中に米を詰めた料理になってたのかも。それはそれで参鶏湯っぽくておいしそうだが……。
そんな能書きは置いといて、正統派とアレンジの両方で磨き上げられてきたいなり寿司たちをとにかく食べて欲しい!
『海木』の「だしいなり」はもっちり柔らかいお揚げから溢れるダシが味わい深く、『味吟』のは軽やかなシャリに甘辛いお揚げのバランスがイイ。『YUKIYAMESHI』のオープンタイプのいなりは旬の食材を使っていて目からも舌からも季節を感じられるし、食べ応えたっぷりだ。『福寿家』の野菜をロールしたいなりは考え尽くされたシャキッと食感と野菜といなりのマッチ具合に驚かされる。
テイクアウトしたら近場の公園まで足を伸ばすのが断然おすすめ。春の陽を浴びながら口福に包まれよう。
撮影/竹崎恵美子(高はし、秀徳本店 恵)、西崎進也(おつな寿司)、鵜澤昭彦(海木、味吟、YUKIYAMESHI、福寿家)、取材/藤沢緑彩
※2024年4月号発売時点の情報です。
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