最初から生地にもバターを加える発想
思いついたのは、生地にもバターを加えるという発想だった。普通クロワッサンは、バターを入れない生地にシート状の発酵バターを挟んで層にする。ところが平山さんは、最初から生地にバターを入れてしまおうというのだ。
「バターを減らすのは簡単なんですけれど、やはり食べた時のリッチな感じもみなさん好きだと思うので、そこは変えたくなかったんです」
例えば使うバターの全量を1とするなら、一般的には生地はバター0、折り込むバターが1となる。平山さんの場合、およそその半々の割合で生地にもたくさん使う。この生地に練りこむという方法で、バターも酸化しにくくなるという。
結果、折り込みバターの量を減らしてもトータルの使用量は変わらない。バター自体をたっぷり折り込んだクロワッサンに比べれば、広がるバターの香りは少し低いが、食べたときのバター感はしっかりあり、満足度は高い。
「ジュワッとバターを感じるのは、例えばシナモンロールなどで楽しんでもらえればと。あくまでクロワッサンは日常で食べやすく、おいしいパンでありたいなと思うんです」
ちなみに平山さんの好きなクロワッサンの食べ方は、ジャムを添えることだとか。
「僕はジャムが大好きなんです。店でも作っていますが、だいたい季節のジャムを添えて食べています」
元々コーヒー好きということもあり、ジャムを添えたクロワッサンと自分でドリップしたコーヒーを添えれば、至福の朝ごはんの完成だ。
国産小麦に早くからこだわったパン職人、「ゆめかおり」を使用
平山さんは早くから国産小麦にこだわったパン職人のひとりでもある。そこでクロワッサンには、地元近郊で多く作られる小麦・ゆめかおりを8割使い、そこに「ちょっと自分好みのテクスチャーを出す」ために北海道産を混ぜている。
その小麦を選んだ理由はなぜだったのか。
「ゆめかおりは国産小麦の中でも、唯一、外国産小麦にそっくりな食感を持っているんです。もちもちし過ぎないというか、歯切れがよく、ニュートラルに使えます」
確かに国産小麦はもちもち感が強いというイメージがある。そう伝えると平山さんはこう続けた。
「それが国産小麦の個性といえば個性です。遺伝子的にアミロース含有量が低いので、どうしてもお米寄りの食感になる。元を辿るとうどんに使われる小麦、農林61号などから派生した日本の小麦を片親に持っているからなんです」
今は他のパンにも地元のゆめかおりを多く使っているが、以前は様々な国産小麦を使っていた時期もあったとか。
そもそも平山さんが国産小麦に目覚めたのは店を開く前。国産小麦のレベルが格段によくなり、先駆けて使う先輩のパン職人たちを見るようになった時期だ。やがて小麦農家を訪れたことをきっかけに、どんどん魅せられていったという。
「農家さんと会ってすごく感銘を受けました。この思いを伝えたいという気持ちが強くなり、小麦ありきのパンを焼くようになったんです」
でも、と続く。小規模な農家に人気が集中すると、小麦の絶対量が足りなくなってしまう。農家の負担にもなる。そこで方向転換を図った。
「ご当地で、地元の小麦を使ったパン屋があるのも楽しいなと思って」