基本を誠実に守り 心を込めた味が魅力
池「その地域に馴染むよう努力してる店も多いよね。以前は都心部の店で働いていたという『ブロートヴァルム』のご主人はもともとフランスパンとかデニッシュが得意。最初はそれらを提供してたけど、中板橋という土地柄か受けなかったそう。今ではもっと庶民的な、ちょっと甘めの生地を使ったパンにシフトして地元に愛されてる」
肥「あと、取材でよく言われたのは『うちは特別なことはしてませんよ。これしかできないし、基本を守り普通に作ってるだけですよ』という言葉。店の歴史や味を声高に誇示することなく、謙遜されるんだよね。毎日普通においしいパンを作っていることがすごいのに。もっと私も謙虚にならないと。さっきの原稿料10倍アップして……の件、前言撤回。5倍でいいや」
池「全然反省してない(笑)。でもそうだよね、いい意味で“普通に”を大切にしてる。大事な材料をちょっと減らしたり、楽な方法に変えたりすると“らしきもの”になって普通じゃなくなってしまうそう。基本に忠実に、手を抜かずに、気持ちを込めて作り続けている店のパンはやっぱりおいしいんだよなあ」
武「だからこそ、あんぱんだけが飛び抜けておいしい、サンドイッチだけが素晴らしいということはなく、何かひとつがおいしい店は全部良かった。なのでジャンル別の店選びも困ってしまいました」
市「本当です。私の担当だと『ナカヤ』や『ベーカリー花火』などは全部おいしかった。前者はホスピタリティも素敵で、調査時にコソコソ写真を撮ったり、やたら長居する怪しい私にもやさしかったです(笑)。後者の店主は料理人。最初はパン作りの難しさに頭を抱えていたそうですが、パンも料理と見立てたらイメージが続々湧いてきたと話してました」
武「具も手作りにこだわる店もありますが、取材してみると実はあんぱんのあんは既製品、コロッケも揚げるだけのものを仕入れているという店も多く、ちょっと驚き。おいしい店は具材もすべて自家製と思ってました。結局パンと具材のバランスが大事なのかな。生地の甘さだったり食感だったり、みなさん自分が作るパンの特徴を理解した上で、ピッタリ合うあんや揚げ物を厳選している。旨い訳です」
藤「確かにパン作りだけでも大変なのに、高齢の夫婦で経営している店だったりすると具材も全部手作りにするのは難しいかもしれませんね」