「宮廷馬車ものがたり(1)」では、導入の経緯などを振り返りましたが、本稿では「身近に見ることができる信任状捧呈式の馬車列」や、美術工芸品としての価値をも有する宮廷馬車の行く末について考察します。
身近に見ることができる馬車列
儀装馬車を使用する儀式のうち、誰もが気軽に見ることができるのが「信任状捧呈式」である。信任状捧呈式とは、新任の外国大使ら(特命全権大使や、特命全権公使など)が天皇陛下に、その国の元首からの信任状(全権委任された大使であることが記された書状)を捧呈する儀式で、その際の送迎用として天皇陛下からリムジンタイプの御料車か、馬車のいずれかが差し回される。どちらを選ぶかは大使らが決めるが、ほとんどは馬車を選択するという。
昨今のような酷暑となる夏の時季は、馬車の運行は見送られる傾向にある。馬の体調管理も理由の一つだが、馬車にはエアコンがないため、人に対する配慮もあるようだ。また、雨天の場合には、馬車から自動車へ変更になることもある。ちなみに馬車をこうした賓客の送迎に使用する国は、日本のほかイギリス、スウェーデン、オランダ、スペインなどに限られるという。
場所によっては8回も見られる?
馬車、自動車による送迎区間は、東京駅中央玄関から皇居宮殿までの間と決められている。大使は、東京駅まで大使館のクルマなどで来て、乗り換えるのが一般的なパターンだ。信任状捧呈式は、平均するとほぼ毎月1~2回のペースで行われており、午前か午後のいずれかで行われる。1回行われるごとに2か国が続けて式に臨まれることが多く、もちろん1か国の場合もある。
馬車列は1国目と2国目とが交互に送迎運行することから、空馬車(からばしゃ=回送する馬車のこと)を含めれば、その日、東京駅周辺では合計8回(2か国の場合)も見ることができる。馬車列のルートは、東京駅中央玄関→行幸通り→和田倉門交差点(直進)→皇居外苑(皇居前広場)→二重橋(皇居正門)→皇居宮殿を往復する。なお、二重橋(皇居正門)付近で見学した場合は、空馬車が通らないため4回しか見ることができない。
肝心な馬車の運行日であるが、宮内庁のホームページかインスタグラムで「信任状捧呈の馬車列の運行予定について」として、日程が事前に公表される。おおまかな馬車の運行時間も合わせて公表してくれるのは、うれしい限りだ。