馬車は1台だけとは限らない!?
信任状捧呈式には、大使らのほかに随員(お付きの人)や大使館関係者なども一緒に皇居を訪れる。このため、馬車列には数台の馬車が連なることもある。馬車列には、警視庁や皇宮警察の”騎馬隊”も加わるため、その編成美は圧巻だ。
随従者が乗る馬車は、大使らが乗る儀装車4号とは異なり、「普通車3号」というタイプの馬車が使用される。大使らが馬車で、随従者は自動車といったケースもあり、毎回馬車がたくさん連なるとは限らない。
いつまで運行できるか
儀装馬車は、明治から昭和の戦前期にかけて製造され、その歴史的な価値とともに美術工芸品としても大変貴重なのである。それを現役で使用し維持管理することは、大変な苦労が伴うことだろう。
当時、宮内省に納めていた国内における馬車製造は、企業ではなく個人事業者が請け負っていた。帳簿上にはメーカー名ではなく、「製造人」として個人名が記されているが、こうした個人経営の馬車事業継承はままならず、現在では都内に1店舗しかないのが実情だ。部品ひとつとっても、いつまでその部品が確保できるかなど先行きが見通せない状況にもある。「いつまで走らせることができるのか……」、と心配そうに話す職員もいる。走る美術工芸品として、末永く運行してくれることを願うばかりだ。
文・写真/工藤直通
くどう・なおみち。日本地方新聞協会皇室担当写真記者。1970年、東京都生まれ。10歳から始めた鉄道写真をきっかけに、中学生の頃より特別列車(お召列車)の撮影を通じて皇室に関心をもつようになる。高校在学中から出版業に携わり、以降、乗り物を通じた皇室取材を重ねる。著書に「天皇陛下と皇族方と乗り物と」(講談社ビーシー/講談社)、「天皇陛下と鉄道」(交通新聞社)など。