自動車の経済学

「水素」燃料の「クラウンセダン」なら約136万円の補助金をゲット!! それでも「個人使用」に向かないわけとは?

トヨタクラウンセダン

これまで多くの自動車メーカーが水素を燃料とした乗用車を試作し、公道でのテストを繰り返してきたが、トヨタは2014年に市販の燃料電池車「ミライ(MIRAI)」を市販した。水素を燃料とするこの画期的な乗用車は、2024年時点では2代目へと進化している。環境にやさしく、補助金の給付も受けられるが、個人で所有するメリットはあるのだろうか?

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これまで多くの自動車メーカーが水素を燃料とした乗用車を試作し、公道でのテストを繰り返してきたが、トヨタは2014年に市販の燃料電池車「ミライ(MIRAI)」を市販した。水素を燃料とするこの画期的な乗用車は、2024年時点では2代目へと進化している。環境にやさしく、補助金の給付も受けられるが、個人で所有するメリットはあるのだろうか?

水素なら二酸化炭素や有害な排出ガスを発生しない

水素を燃料に発電し、モーターで走行するのが燃料電池車だ、写真はトヨタミライ用の燃料電池システム

最近は水素で走るクルマが話題になっている。走行段階では、地球温暖化の原因になる二酸化炭素や動植物に有害な排出ガスを発生させないからだ。

水素で走るメカニズムには2つの種類がある。ひとつは燃料電池車だ。高圧水素タンクに充填された水素を酸素と反応させて電気を生み出す。発電機などを作動させない静かな発電装置といえるだろう。

もうひとつは、ガソリンや軽油のように、水素をエンジンの内部で圧縮して燃焼させる方法だ。内燃機関だが、ガソリンや軽油の燃焼とは異なり、二酸化炭素を発生させない。

トヨタから発売中の2台の水素自動車

2代目へと進化したトヨタミライ(MIRAI)は、燃料電池専用車となっている

この内、既に商品化されて購入できる水素自動車は燃料電池車だ。現時点でトヨタが燃料電池のみを搭載するMIRAIと、クラウンセダンのFCEV・Zを用意する。

1回の水素充填によって走行できる距離は、WLTCモードでMIRAIが810~850km、クラウンセダンは約820kmとされる。電気自動車のトヨタbZ4Xは487~567kmだから、燃料電池車が走行可能な距離は圧倒的に長い。

トヨタクラウンセダンは、燃料電池車とガソリンエンジンベースのハイブリッドの2種類が用意される

さらに水素の充填時間も、MIRAIやクラウンセダンであれば3分程度だ。bZ4Xの充電時間は、6kW/200Vの普通充電が約12時間、50kWの急速充電器でも約60分(電池容量の80%まで充電)だから、燃料電池車は大幅に短い。

以上のように、電気自動車には1回の充電に長い時間が掛かり、その割に走行できる距離は短いが、燃料電池車であればこれらの欠点が解消される。

約6割の水素ステーションが首都圏と中京圏に集中

高輪ゲートウェイ駅のすぐ近くに水素ステーションがある

しかし燃料電池車には、解決すべき課題が2つある。1つ目は水素を充填する水素ステーションが乏しいことだ。以前に比べると増加したが、全国に152箇所(2024年4月現在)だから、給油所の約2万8000箇所(2023年現在)に比べると大幅に少ない。

しかも水素ステーションは、首都圏と中京圏にそれぞれ30%が集まり、この2つの地域を合計すれば全体の約60%に達する。水素ステーションの整備状況を見ると地域格差が大きく、利用できるユーザーは限られてしまう。給油所に比べて、営業時間の短い水素ステーションもある。

従って仮に自宅や勤務先の近辺に水素ステーションがあっても、遠方まで外出して水素充填の必要が生じると、電気自動車以上に不便を強いられる。現実的には、水素充填をしないで戻れる範囲内の移動に限られる。

ガソリン同様値上げする水素でコスト増大

トヨタは、「ENEOS スーパー耐久シリーズ 2024 Empowered by BRIDGESTONE 第2戦 NAPAC富士SUPER TEC 24時間レース」に、液体水素を燃料として搭載した「#32 ORC ROOKIE GR Corolla H2 Concept」(以下、液体水素エンジンGRカローラ)で参戦した

水素価格も重要だ。ガソリンと同様、燃料電池車に充填する水素も値上げされ、2024年6月上旬では、1kg当たり1600~2000円に達する。そうなるとクラウンセダンFCEV・Zの場合、水素価格が1kg当たり1600円としても、1kmを走るためのコストは10.8円だ。

一方、同じクラウンセダンに2.5Lエンジンを使ったハイブリッドを搭載するZでは、レギュラーガソリン価格が1L当たり170円の高値で計算しても、1kmの走行コストは9.4円に収まる。直近の水素価格を見る限り、燃料電池車は走行コストでも不利になる。

水素で走るクラウンセダンなら補助金が約136万円交付される

トヨタクラウンセダン

以上の点を踏まえると、燃料電池車は、個人ユーザーにとって一般的な選択肢ではない。所有するなら、生活圏内に複数の水素ステーションがあり(1箇所では廃止された時に困る)、なおかつ走行コストの安さを求めないことが条件になる。

なお燃料電池車の価格は、ユーザーの捉え方次第だ。クラウンセダンFCEV・Zは830万円だが、国からの補助金が136万3000円交付される。補助金額を差し引いた実質価格は693万7000円だ。クラウンセダンハイブリッドZは730万円で、補助金の交付はない。つまり補助金を含めれば、クラウンセダンの場合、燃料電池車の方がハイブリッドよりも安く手に入る。

文/渡辺陽一郎(わたなべ よういちろう):自動車月刊誌の編集長を約10年間務めた後、フリーランスに転向した。「読者の皆様にケガをさせない、損をさせないこと」を重視して、ユーザーの立場から、問題提起のある執筆を心掛けている。執筆対象は自動車関連の多岐に渡る。
写真/トヨタ、おとなの週末Web編集部

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