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 どこのメーカーも同じだと思うが、品質部門の人たちはめっちゃこわい。ほかの企業に勤めたことがないからほんとうのところはわからないけど、私の経験上、モノを製造しそれを売るまでの過程において、品質をチェックする仕事を担う人たちは、ニコリともしない。めっちゃこわい。

■人が死ぬために生きるのではないように

 あの方たちは社内のあらゆる方面に厳しい。絶大な権力を握っていると言ってもいいと思う。なぜなら品質をチェックする人たちが「ヨシ!」を言わなければ、製造もできなければ販売もできないからだ。地位がえらいとかえらくないとは別のところで、モノの生殺与奪を握っているのである。メーカーにおいて「ダメったらダメ」が言えるのは、社長と品質チェックの人なのだ。これを権力と呼ばずしてなんと呼ぶ。

 なので昔から巷でまことしやかに語られる「あのメーカーは○年後に壊れるように作っている」という話に、私はやっぱり「それはさすがにない」と言いたくなる。あの品質チェックの人たちの仏頂面を思い出せば、壊れるために作ることなんて、どだい無理なのだ。人が死ぬために生きるのではないように、モノは壊れるために作られるのではない。

 もちろん「壊れる」ことはある。永遠に壊れないということは万物の法則上ありえないし、すぐ壊れるというケースも原理的にゼロにすることはできない。だから作る側としてはまことに申し訳ないけど、壊れたという経験をした人はいる。そして壊れた経験が重なって「壊れやすい」という印象を持つに至った人もいる。その点において企業は開き直ることはできないし、私の知るちっぽけな範囲でも、メーカーは「壊れた」に対して真摯に対峙しようとしてきた。だから余計に、品質チェックの人たちは厳しく、こわくあり続けるのだろう。

 品質チェックの人たちがチェックするのは、物質的な品質だけではない。機能がほんとうにそれを果たしているかも、厳しくチェックされる。たとえば静かさとか省エネといった数値のアピールも、限りなく実際に近い製品でもって確からしい量を計測するし、快適さといった一見個人の感覚に依りそうなものでも、具体的な根拠が見えるまで科学的に測定される。

 あるいは部品の寿命xx万時間などといった、実際にそれを待っていたらこちらの寿命が終わってしまうような年月も、温度湿度圧力などを過酷にした環境を作ることで、時間を加速させた試験を繰り返し、耐久時間を算出するのだ。機能を推すからには推せるだけの根拠を厳密に算出する仕組みが、製造する側にはある。

 つまりチラシやサイトに種々の言葉で踊る家電のウリは、製品の品質と同様、すでにきびしいチェック済みなのである。あたり前のことだが、真偽の定かでない機能のアピールなど、許されるものではない。あの手この手で機能や推しをわめきちらす仕事の私も、さすがにできることしか宣伝できない。しょせん私は、品質チェックの人から配られた手札でしかゲームできない、しがないプレーヤーなのだ。

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■実際に「除霊できるんですか?」と質問されることもある...
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山本隆博
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