走るホテルと称賛されたブルートレイン
皇太子殿下時代の上皇陛下は、ご結婚後の1960(昭和35)年8月にご公務で広島県と岡山県を訪れた。その往復には飛行機ではなく、寝台特急の「ブルートレイン」を利用した。この寝台特急は、20系と呼ばれた当時としては最新鋭の寝台車両客車で、その車内設備の豪華さなどから”走るホテル”と称賛された。
往路の8月5日は、東京駅18時30分発の寝台特急「あさかぜ」号に乗車し、復路は8月8日の岡山駅午前0時18分発の寝台特急「あさかぜ」に乗車され、往復とも一等個室寝台客車の一人用個室「ルーメット」をご利用になった。この車両は1両の定員が18名と少なく、3両しか作られなかった希少な車両だった。このときの利用では、編成に食堂車も連結していたが、食事をとられたという話は聞かれなかった。
当時、このことは新聞記事にもなったが、活字で伝えるのみで、乗車中のお姿を写した写真は掲載されなかった。
文・写真/工藤直通
くどう・なおみち。日本地方新聞協会皇室担当写真記者。1970年、東京都生まれ。10歳から始めた鉄道写真をきっかけに、中学生の頃より特別列車(お召列車)の撮影を通じて皇室に関心をもつようになる。高校在学中から出版業に携わり、以降、乗り物を通じた皇室取材を重ねる。著書に「天皇陛下と皇族方と乗り物と」(講談社ビーシー/講談社)、「天皇陛下と鉄道」(交通新聞社)など。