巷ではジンソーダ人気がじわじわ上昇中だったりと、近頃グイグイ身近な存在になってきた“蒸留酒”。ジン、ラム、テキーラ以外にも、ちょい深掘り系な蒸留酒まで、楽しく体験できるお店をご紹介します。なんと、東京の商業ビル内や住宅街のど真ん中にもあるんです!つまり仕事帰りにフラッと蒸留所、覗き見できちゃいます。
画像ギャラリー巷ではジンソーダ人気がじわじわ上昇中だったりと、近頃グイグイ身近な存在になってきた“蒸留酒”。ジン、ラム、テキーラ以外にも、ちょい深掘り系な蒸留酒まで、楽しく体験できるお店をご紹介します。なんと、東京の商業ビル内や住宅街のど真ん中にもあるんです!つまり仕事帰りにフラッと蒸留所、覗き見できちゃいます。
東京の島酒をベースに季節がパーっと香り立つ!『虎ノ門蒸留所』
ワインであればワイナリー、日本酒であれば蔵元、ビールなら醸造所。そして蒸留酒ならば蒸留所ということになる。何の話かと言えば、お酒を造っているところ。で、そういうところへ行くのは楽しい。
「おー、こんなふうにして造るのね」と成り立ちをリアルに知れたり、造り手の思いがわかったり、何ならそこでしか飲めないお酒があったり……。バックグラウンドを知ることで、知らずに飲むよりもっと味わいは深くなり、楽しさが増すからだ。
とはいえ、そういう“産地”はたいがい遠い。「興味はあるんだけどね……」となりがちだ。いやいや、ちょっと待て!東京のど真ん中にもあるよ、おすすめの蒸留所。というのが今回のお話。
で、紹介したいのが、都心も都心、虎ノ門ヒルズビジネスタワー3階に名店が集まる〈虎ノ門横丁〉、その中にある『虎ノ門蒸留所』。クラフトジンの蒸留所だ。ちなみにこちら、『酒食堂 虎ノ門蒸留所』という居酒屋&バーが併設されていて、そちらで実際に楽しく飲むことも、ボトルを買うこともできる。
クラフトジン。クラフトとは「(小さい規模で)手造りの」という意味。ジンはウイスキーのように熟成用の貯蔵庫もいらないし、基本蒸留すればすぐ飲める。それもあって、都市型のマイクロな、かつクラフトゆえに個性的な蒸留所が増えているのだ。
さて『虎ノ門蒸留所』。ここは2020年6月に虎ノ門横丁がオープンするのと同時に開業した。実はこちらの蒸留家・一場鉄平さんはもともと空間デザイナーで、虎ノ門横丁の企画担当者。それが開業に向け企画に携わるうちにすっかりジンの魅力に“開眼”したとか。そもそもジンの何にはまったのか?
『アルケミエ辰巳蒸留所』のジンに出合った!
当初、いまいちピンと来ていなかったクラフトジンを一気にいいなと思ったのは、『アルケミエ辰巳蒸留所』のジンに出合ったことがきっかけだという。
「辰巳さんの造る蒸留酒は、オレンジだったり、ふきのとうであったり、ボタニカルの香りがとても自然に感じられて、季節も感じられる。いい意味で、シンプルで誰にでもわかりやすいのが素敵だなと」
ジンはボタニカルのお酒である。基本的には、ベースとなる蒸留酒にボタニカルを浸漬させ、ポットスチルと言われる蒸留器で再蒸留して造る。ボタニカルとは、ハーブや種子、スパイス、果物など植物由来のもの。蒸留によって抽出されるその香味成分が生命線だ。あとはボタニカルの中に、ジンを象徴する香りとしてジュニパーベリー(杜松の実)を必ず使うというのが決まり。
もともとジンは十数種類以上のボタニカルが使われ、素材を組み合わせて調和を生み出す、西洋的な足し算のお酒。それに対してよりシンプルに引き算され、背景にある自然や土地の匂いなどをよりクリアに感じさせる辰巳さんのジンに魅力を覚えた。
そこで一場さんが目指したクラフトジン。そのコンセプトは、「東京ローカルスピリッツ」。ローカルな素材を使った、東京らしい、新しい日常酒だ。難しくなく、「ああ、この香り!」と楽しめる。極力シンプルに、素材のエッセンスを最大限に引き出そうと考える“引き算のジン”でもある。
蒸留前のベースアルコールとして使うのは、八丈島や新島などの伊豆諸島で造られる島酒、島焼酎だ。そして仕上げの割水には奥多摩源流、青梅沢井の湧き水が用いられている。東京の酒と水。ベースの焼酎は飲み口にまろやかさや奥行きを与え、やわらかい飲み口の軟水は自然な甘みを引き出している。
ラインナップは大きく分けてふたつある。ひとつはこちらのレギュラージンである「COMMON」。八丈島の島酒「情け嶋」をベースに、ジュニパーベリーとチコリルートで香りづけされている。味わいに島焼酎の個性も生きながら、シンプルですっきりした香りはストレートでよし、ソーダやトニックで割ってもよし。食中酒としてそれこそ唐揚げにもポテサラに合わせても抜群に相性よく楽しめる。
そしてもうひとつが「季節のジン」。新島の「嶋自慢 羽伏浦(はぶしうら)」をベースにし、最も香りのよいときに収穫したボタニカルを蒸留して時季の植物のありのままをシンプルに感じられるようにしている。たとえば、「いちご」「青梅の梅と梅の花」「東京のキンモクセイ」「不知火と紅はっさく」等々。名前を挙げるだけで、香ってみたくなるではないか!
季節のジン「いちご」のソニック
スタッフやときには一般の人にも参加してもらって収穫や採取に出かけるそうで、造る過程も大事にしている。
そのほかにも周年ボトルやアブサンなど、年間20種類は造っていて、ここに来れば、ガラス越しにピカピカのボットスチルを目にしながら、常時12~13種類飲めるのがうれしい!
四周年ジン hibi、四周年ジン hosi、みかんの花、カモミール
ソーダで割ればパーっと香りが開いて爽快。自由な飲み方で、つまみと合わせて、思う存分味わっていただきたい。
[住所]東京都港区虎ノ門1-17-1 虎ノ門ヒルズ ビジネスタワー3階 虎ノ門横丁
[電話]03-6205-7285
[営業時間]11時半~15時(14時半LO)、17時~23時(22時LO)、土:12時~22時半(21時半LO)、日・祝:12時~22時(21時LO)※電話、営業時間ともに隣接の『酒食堂 虎ノ門蒸留所』の情報です。
[休日]無休
スコットランド人が日本で造るクリアなフレーバー『BLUE RABBIT DISTILLERY(ブルーラビットディスティラリー)』@御嶽山
鮮やかなブルーの中に青いマティーニを持った青いウサギ。印象的なラベルにまずグッと引き込まれる。スコットランド人のマーク・スミスさんが2022年12月にオープンさせた蒸留所のクラフトジンだ。
日本人の奥様、紀子さんによれば「いつも何かに凝って夢中になってる」というマークさん。彼がクラフトジンを造ろうと思い立ったのは2020年。それまでのコンサルタント業の仕事がコロナ禍で影響を受け、新規ビジネスとして選んだ。「イギリスのジンマーケット規模を考えたら、きっと日本でもヒットする予感があった」という。
若い頃にワインビジネスに関わったことはあるが蒸留の経験はまったくなし。技術はオランダとイギリスのオンラインスクールで学び、蒸留機はオランダにオーダーメイド、ボトルはイタリアのベネチアから。見事な行動力で、蒸留所の内装や機器の設置なども電気関係以外はすべてDIYというから驚きだ。
というか「僕はイギリス人だからラベルのマティーニを持つウサギは007をイメージしてる」なんて鼻歌混じりのマークさん、とにかく楽しそうだ。
日本とイギリスの文化のミックス
まさにマイクロな手造りの蒸留所。そこでマークさんが造るジンのコンセプトは、日本とイギリスの文化のミックスだ。たとえば「シグネチャー ジン」のボタニカルには、ジュニパーベリーを基調に、エリカ(イギリスのヘザーの花)や日本の柚子が使われている。さらにはヒノキや生姜、煎茶も用いられ、それらが繊細なレイヤーとなって、クリアに心地よく感じられる。
シグネチャー ジン、プレミアム ブルー ジン、スパイス ラム
「プレミアム ブルー ジン」はさらに華やかでフローラルだ。ボタニカルにはラベンダーやヒノキ、山椒が使われ、蒸留後に漬け込んだバタフライピーフラワーが青色を与えている。実はこのブルー、トニックウォーターを注ぐと青からピンク色に変わる。そんな遊び心もイカしてる。
プレミアム ジントニック ピンクペッパー
アイデアは限りなくあるというが、現在ラインナップは他にジン3種と、ウォッカとスパイスラム。柚子皮が漬け込まれたウォッカも、12種のスパイスを漬け込むというラムも個性的にしてなめらか。いずれのスピリッツもここで買えるし、試飲もできる。ぜひ、マークさんに会いに行ってみては?
[住所]東京都大田区田園調布本町57-2 大野ビル1階
[電話]03-3722-8616
[営業時間]12時~18時
[休日]月
[交通]東急池上線御嶽山駅から徒歩4分
撮影/西崎進也(虎ノ門蒸留所)、松永直子(BLUE RABBIT DISTILLERY)、取材/池田一郎
※2024年9月号発売時点の情報です。
※写真や情報は当時の内容ですので、最新の情報とは異なる可能性があります。必ず事前にご確認の上ご利用ください。