■ 蕎麦を待ちつつクイっと一杯
説明が少し長くなったが、そんな老舗蕎麦屋を訪れたら締めの蕎麦を楽しみにしつつ、まずは一杯でしょと。「昔から蕎麦屋にはいいお酒があるというのがコンセンサスだったんです」とは現当主・堀井良教さん。
江戸時代、蕎麦屋が置いたのは上酒、灘からの下り酒で、蕎麦屋の酒なら安心して飲めたとか。朝早くから働いて早仕舞いした江戸の庶民が、小腹の空いたお八つの時分に蕎麦を待ちつつクイっと一杯。その酒はちょっと熟成の入った下り酒かなってわけで、いいねえ。
そんなわけだから、さっと昼酒というのは蕎麦屋の特権。様になる。で、つまみは何かというと、種物の材料を上手く使い回してるってのがいい。江戸時代ってのはエコでエシカルだったって話があるがその通り、そこが粋でもある。
さらに「玉子焼きや鳥焼、天ぬきなどもそうですが、味はかえしや蕎麦ツユを上手く使って決めるんですね」(堀井さん)と聞けば、これはもう完成された世界なのだ。
今どきはつまみの種類も増えているが、昔ながらのど定番からいけば板わさと焼き海苔。板わさとは、板かまぼことわさびの略だ。もちもちの上等なかまぼこにわさびをのっけて醤油をつけていただく。むう〜、簡潔に旨い。