父の突然の死が背中を押した
その後、2018年に入社したのが、『銀座 八五』などの人気店を擁する『中華そば 勝本』グループ。ミシュランに掲載されるなど、ラーメンをより料理として昇華しているところに魅力を感じた。しばらくして東京・水道橋店の店長を任され、3年目には統括部長として現場に出ながらシフト管理や商品開発などにも携わり、順風満帆に過ごしていた。しかし、2022年2月、突然の自宅待機を命じられる。
その最中、2月28日に鴨志田さんの父が急性心筋梗塞で倒れ、3月1日には66歳の若さで帰らぬ人とった。母が一人、実家に残されていたため、『勝本』を退社し、地元に戻り、自分の店を持つことを決意したという。
「東京では毎日飲んでいたので貯金はなくて、開業資金を集める苦労などの不安はありましたが、父が他界した3日後には今の物件を押さえていました」
実は、高萩市は茨城県で人口が一番少ない市だ。
「この場所は何をやっても続かない通りと言われている空き物件で、タクシーの運転手や市の商工会にも、良くない場所ってわかっている?と言われました。不安もありましたが、努力や勉強はしてきましたし、自分なら出来るんじゃないか、逆境のほうがやりがいあると、ワクワクしたことを覚えています」
さまざまな名店のDNAを引き継ぎつつ、信念と自信を持ち進む『自家製ラーメン アイリー』。
「勉強しても勉強しても飽きることがないですし、正解がないところがラーメンのおもしろさです。店主、お客様共に好みがたくさんありますが、うちを気に入ってきてくださるお客様の中で一番になれたら、ある意味、世界一を目指せるのかなと思っています」
地元の老若男女に愛される味と自身のやりたいことのバランスを探りながら挑戦を続ける。今後がますます楽しみな1軒だ。
■『自家製ラーメン アイリー』
住所:茨城県高萩市赤浜1312-1
電話:080-6521-1562
営業時間:平日11時〜14時(L.O.)、土・ 日・祝11時〜14時50分(L.O.)、土17時〜19時30分(L.O.)
定休日:月(祝日の場合は翌日休)
交通:JR常磐線南中郷駅から徒歩約25分
『TRYラーメン大賞全国版』は12月2日発売
2024年で25周年を迎えた「TRYラーメン大賞」(通称「TRY(トライ)」)。日本のラーメンシーンで歴史があり、最も権威ある賞として親しまれている。
12月2日発売の『25周年記念 TRYラーメン大賞全国版 ~25年の軌跡と日本全国の本当に旨い一杯~』(講談社ビーシー/講談社・1320円)は、TRY審査員5名、名店審査員2名の計7名が足を運んで食べた選りすぐりの「日本全国の本当に旨い一杯」を味ジャンル別に分けて掲載。25年の歴史を振り返り、最高の栄誉を得た「TRY殿堂入り店」をはじめ、長きにわたり受賞を果たした「TRY連続受賞店」や「偉業達成店」など、ラーメン界に貢献した名店を受賞歴と合わせて紹介している。「関西の注目すべき新興系ラーメン」などの魅力的な企画もある。
掲載店は、100軒以上。いま食べておきたい“一杯”がわかる25年の集大成ともいえる一冊だ。A5版のコンパクトサイズなので、ラーメンの食べ歩きの際に重宝する。
10月23日には、1都3県を中心に計237軒を載せ、記念すべき第25回の受賞店などを網羅したムック『第25回 業界最高権威 TRYラーメン大賞2024-2025』(講談社ビーシー/講談社・1100円)が発売されている。
「TRY東京ラーメン大賞フェス2024」は11月26日~12月15日、東京・大久保公園で開催
25周年を記念して、2024年11月26日(火)〜12月15日(日)まで、東京新宿区の大久保公園で「TRY東京ラーメン大賞フェス2024」が開催中。
首都圏の旨いラーメンを発掘し続けてきた「TRY東京ラーメン大賞」受賞店が大集結する絶好の機会だ。
文/市村幸妙
いちむら・ゆきえ。フリーランスのライター・編集者。地元・東京の農家さんとコミュニケーションを取ったり、手前味噌作りを友人たちと毎年共に行ったり、野菜類と発酵食品をこよなく愛する。中学受験業界にも強い雑食系。バンドの推し活も熱心にしている。落語家の夫と二人暮らし。