養殖法も、わたしたちと同じく海にカキをぶら下げる垂下式で、カキの姿も宮城種と似ています。聞いてみると、ルーツはやはり日本のカキだそうです。1960年代から70年代にかけて、疫病でフランス国内のカキが全滅の危機にさらされたのです。そのとき、病気に強い宮城産の種ガキが送られて、カキの養殖業者が救われたのです。
高校生のころ、かき研究所の今井先生から、宮城種をフランスに輸出したとは聞いていましたが、これほど普及していたとは知りませんでした。
「宮城種がなかったら、わたしたちは生きていけませんでした」
と、カキ養殖業者から握手を求められたのです。とてもうれしいことでした。
地元の生産者が経営するレストランでの昼食会はおおいに盛り上がりました。
「フランスと日本のカキのために!」
と、何度もシャンパンで乾杯しました。実はわたしはお酒が飲めないのです。お吸い物に入っているお酒ですら、敏感に感じ取る体質。やけ酒ならぬやけコーヒーという人間です。でも、この日ばかりは特別です。ついグラスを傾け、酔いも手伝って、地中海の青空のもとで、
エンヤードット 松島のサーヨー
と、宮城県の民謡「大漁唄い込み」を声高らかに響かせたのです。
…つづく「これでは生物は育たない…宮城県、三陸の「カキ養殖家」が日本の川に落胆したワケ《フランス》とはこれだけ差があった」では、日本に帰国したカキじいさんを愕然とさせた、当時の川と海の状況を振り返ります。
連載『カキじいさん、世界へ行く!』第3回
構成/高木香織
●プロフィール
畠山重篤(はたけやま・しげあつ)
1943年、中国・上海生まれ。宮城県でカキ・ホタテの養殖業を営む。「牡蠣の森を慕う会」代表。1989年より「海は森の恋人」を合い言葉に植林活動を続ける。一方、子どもたちを海に招き、体験学習を行っている。『漁師さんの森づくり』(講談社)で小学館児童出版文化賞・産経児童出版文化賞JR賞、『日本〈汽水〉紀行』(文藝春秋)で日本エッセイスト・クラブ賞、『鉄は魔法つかい:命と地球をはぐくむ「鉄」物語』(小学館)で産経児童出版文化賞産経新聞社賞を受賞。その他の著書に『森は海の恋人』(北斗出版)、『リアスの海辺から』『牡蠣礼讃』(ともに文藝春秋)などがある。