海を育てるロワール川流域の広葉樹大森林
このあたりから、旅の足取りは重くなりました。食文化ばかりでなく、海辺も日本と違うのです。特にロワール川が注ぐ、ブルターニュ地方の海辺の生物の多様性には驚きました。わたしが子どもの頃、海辺で遊んだ小動物が、うじゃうじゃいるのです。
フランスには「風景は絵である」という考え方があります。コンクリートの護岸はほとんどなく、海辺にはヤドカリ、イソギンチャク、カニなどの小さな生き物がたくさんいて、宮城種のカキもすくすく育っています。
さらに驚いたことは、川一面にシラスウナギ(ウナギの稚魚)が上流を目指して上っているのです。シベルと呼ばれるシラスウナギは、名物料理の「シラスウナギのパイ皮包み」となって、レストランで食べられているのです。
「川の環境がいいんだな」と、わたしは感じました。
そこで、海辺から内陸部に川をさかのぼってみたのです。すると、落葉広葉樹の大森林が広がっているではありませんか。
ロワール川流域のトゥール地方東部は広葉樹の大森林地帯で、ブロワの森、リュシーの森、アンボワーズの森、シノンの森といった大森林が広がっていて、それらの森からは10本以上の支流がロワール川にそそぎ込んで水郷地帯を形づくっています。そして、ロワール川はブルターニュ地方の海にそそいでいるのです。
「森は海の生物を育んでいる」
わたしは、フランスでそのことを確信したのです。
フランスの旅が「森は海の恋人運動」のヒントに
フランスから帰ると、気仙沼湾に注ぐ大川の流域に立ちました。自分の風土を見直そうと思ったのです。かつて河口はノリの養殖場で、春には潮干狩りを楽しむ人々で賑わっていました。その干潟は埋め立てられて水産加工場が並び、濃い口醤油のような色の排水が川を汚していました。悪臭もひどかったのです。川をさかのぼり、水田地帯に行くと、子どものころに目にしたドジョウやフナがいません。愕然としました。
隣の岩手県の室根村(現・一関市室根町)まで行くと、雑木林が減り、杉林が多くなっていることにも気づきました。そのころの日本では、安い外国産材の影響で、間伐されていない杉林が多く、そうした場所では枝と枝がぶつかりあい、光が入らずに暗いのです。下草は生えず、土がむき出しでした。これでは大雨が降ったら表土が崩れ、川も海も泥だらけになるはずです。