副業で鉄道経営を支える
1965(昭和40)年代になり、クルマの普及やバスによる交通手段が多様化されると、銚子電気鉄道の利用者は減少傾向となり、経営状態は赤字へと追い込まれていった。幾度となく廃止がささやかれることもあった。1968(昭和43)年には、犬吠駅近くにあった千葉県営の採石場での特産石「銚子砂岩」の採掘が取りやめとなり、銚子電鉄による”砕石輸送”も廃止され、経営にとって大きな痛手となった。
1969(昭和44)年以降は、銚子市からの補助金や、1975(昭和50)年には国からも支援を受けるようになった。そこで銚子電鉄は、1976(昭和51)年に観音駅に併設する形で「たい焼き」や「たこ焼き」などを販売する”直営売店”をはじめるようになった。副業のはじまりである。このことは当時、多くのメディアで取り上げられ、たちまち話題となり評判を呼ぶようになった。駅前には、電車に乗る人よりも「たい焼き」を求めるお客さんが多いと言われるくらい、行列が絶えなかった。ときには、たい焼きの材料となる”あん”の入った缶を電車で運ぶ姿も見られた。この”たい焼き”の「あん」が入っていた空き缶(一斗缶)も捨てずに加工し、手作りの”ちり取り”として、仲ノ町、観音、笠上黒生の各駅で販売(1個100円/当時)していたこともあった。
1995(平成7)年9月からは、「ぬれ煎餅」の販売にも乗り出した。この煎餅も評判を呼び、次第に電車の運賃収入1億円に対して、“ぬれ煎餅”の売上が2億円を上回るようになった。行列の絶えない観音駅での販売も手狭となり、10年ほど前に犬吠駅へと店舗を移転した。現在は、人出不足もあって“粉もん”は「たい焼き」のみの販売に限定される。
今や、どちらが本業かと思うほどの副業経営であるが、ぬれ煎餅やその後に発売された「まずい棒」(うまい棒のパロディ版、「経営状態が“まずい”」にちなんだお菓子)などを合わせた売り上げは、なんと6億円!!にも及ぶ。その反面、鉄道利用者は減少の一途を辿っており、電車収入は最盛期の半分に落ち込んでいるという。
〔店舗情報〕
〔店舗情報〕『犬吠駅たい焼き売店』、営業日/木・金・土曜、第1・3日曜、営業時間/12:00~16:00、住所/千葉県銚子市犬吠埼9595-1(銚子電気鉄道・犬吠駅)、電話/0479-25-1106
ここに注目!! 銚子電鉄
銚子電鉄は副業だけに限らず、そのすべてに楽しみ方がある。電車は、カラーリングが異なる2両編成の電車が4本ある。タイプは3形式あり、関西を走る南海電鉄から嫁いだ22000形は、グリーンとグレーを基調にした車両が各1編成ずつ。四国は伊予鉄道から嫁いだ元京王電鉄(東京)の3000形は、「澪つくしカラー」と呼ばれるブルーを基調とした車両が1編成。同じ経歴を持つ2000形は、むかし懐かしい銚電旧塗装を身にまとう。
基本、同じ電車が銚子駅と外川駅を行ったり来たりするが、朝の通勤時間帯(6:50~8:30)だけは”2編成”で運行される。途中駅の笠上黒生(かさがみくろはえ)駅で行き違いさせるのだが、その際に「スタフ」と呼ばれる通標(いわゆる通行証)と一体になった「タブレット」と呼ばれる金属製のリングを運転士から運転士に引き継ぎ、安全を確保してから列車を発車させている。こうした光景が見られるのは、関東1都6県でいえば、ここ銚子電鉄だけだ。
”副業”は、食料品以外も扱っている。いわゆる”新電力”と呼ばれる家庭で使用する電気を安く購入できるプランで、その名も「銚子電鉄でんき」だ。このほかには、「銚電柱(ちょうでんちゅう)」という“道端”にある電柱に「応援広告を掲出」するといったユニークな商品もある。
鉄道経営を支えるためには、なんでもやるのが銚子電鉄なのである。

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