行列の先にある“大人のお子様ランチ”『むさしや』で出会うオムライス
1階のとあるフロアに、今日も吸い寄せられるように長蛇の列が連なる。視線の先にあるのは、創業1885(明治18)年の老舗洋食店『むさしや』だ。
明治、大正、昭和、平成、そして令和。時代に合わせて柔軟に業態を変えてきた歴史を持ち、一時は中華料理店だった時代もある。
「新橋エリアで競合が増える中で、4代目が築いた洋食スタイルで勝負すると覚悟を決めました」。
そう語るのは、5代目店主の鈴木昌樹さんだ。
今や注文の半分近くを占める不動の看板メニューが、「オムライス」である。主役を張る卵は、LLサイズを贅沢に1個使用する。
「薄く均一に焼き上げることで、ふんわりとライスを包み込む食感を実現しています。20年間、この味は一切変えていません」。
たっぷりのバターで炒めたチキンライスは、香りが実に見事でケチャップの酸味が丸く収められている。さらに、ワンプレートを彩る脇役たちも隙がない。傍らには、炒めたてアツアツのナポリタンと瑞々しい千切りキャベツ。そして、洋食でありながら湯呑みで提供される熱々の味噌汁がセットになる。
「洋食でありながら和の要素をさりげなく加えることで、忙しいビジネスマンがホッとできる食事にしたいんです」と鈴木さん。
ボリュームは満点だが「ナポリタンは半分の量がいい」「オムライスとサラダだけ食べたい」といった初見客の要望にも柔軟に対応してくれる。その懐の深さも、鈴木さんが受け継いできた『むさしや』らしさである。
わずか7席のコンパクトな空間ながら、行列の進みは驚くほど速い。
「メニュー数は多いほうですが、並んでいる間にオーダーを聞いて準備を進めるんです。着席してすぐに出せるようにしています」と、鈴木さんは得意げに微笑む。
この圧倒的なスピード感も、1分1秒を惜しむ新橋の街で愛され続ける大きな理由だ。
多忙な厨房に立ち続ける鈴木さんの活力は、十数年来の常連客とのちょっとしたやり取りにあるという。
「今日は卵を少し柔らかめで」といった細かな好みに応えるアットホームな距離感に、昭和の面影を残す新橋の温かみが滲む。140年を超える老舗の矜持と、20年間一切味を変えずに守り続けたオムライス。ひと口頬張れば、誰もが笑顔になる不変の味わいが、今日も新橋のビジネスマンを支えているのだ。
■『むさしや』
[住所]東京都港区新橋2-16-1 ニュー新橋ビル1階
[電話]03-3501-3603
[営業時間]10時〜21時、土10時〜15時半
[休日]日
[交通]JR山手線ほか新橋駅烏森口から徒歩1分




