伝統を守るだけじゃない。常識にとらわれない泡盛造り
そして、『池原酒造』のなかでも特に人気を集めているというのが「Shirayuri inui(シラユリ イヌイ)」だ。
戦前の泡盛造りに使われていた伝統の黒麹「イヌイ菌」を使用し、粗濾過で仕上げた特別限定酒。直火釜で蒸留することで、香りの主張が強く、飲む前から鼻をくすぐるような存在感がある。
2021年には、米国最大級のスピリッツコンペティション「サンフランシスコ・ワールド・スピリッツ・コンペティション」で、最優秀金賞(ダブルゴールド)とベスト・オブ・クラスをダブル受賞した。
飲み方にも特徴がある。イヌイは水割りにはあまり向かないという。使う水によって味わいが大きく変わってしまうため、割るならソーダ割り。あるいはロックやストレートで、その個性をダイレクトに味わうのがおすすめだそうだ。
さらに、『池原酒造』らしい遊び心が感じられるのが「チョコレート専用泡盛」。
その名の通り、チョコレートと合わせて楽しむために造られた150mlの特別限定酒だ。
生まれたきっかけは、もともと飲みづらさから思うように売れなかった泡盛を、どうにか活かせないかという発想だったという。
ペアリング候補として黒糖も検討したそうだが、チョコレートのようなコクのある油分がなく、相性はいまひとつ。そこで生まれたのが、チョコレートと泡盛という組み合わせだった。
おすすめは、冷やしたり凍らせたりせず、常温のストレートで。甘めのチョコレートと合わせると、泡盛が苦手な人も、これまで知らなかった味わいに出会えるかもしれない。
昔ながらの直火釜を使いながら、凍らせて楽しむ。伝統的な黒麹を使いながら、新しい飲み方を提案する。チョコレートとのペアリングまで考える。
こうした自由な発想は、いったいどこから生まれるのだろう。
受け継ぐだけじゃない、手造りが生む「ゆらぎ」を楽しむ
その背景には、「場所を動かさない」という『池原酒造』の哲学がある。
創業から75年。蔵はずっと、この場所に建っている。屋根があり、土があり、壁がある。その環境を変えないからこそ、今の味が生まれると考えられている。
3代目の池原優さんは、先代から受け継いだレシピや製法を変えていないという。それでも、飲み手から「味が変わった」と言われることがあるそうだ。
優さんは、その理由を、作り手の性格や、飲み手を取り巻く環境の変化から生まれる「ゆらぎ」だと捉えている。
機械で蒸留すれば、一定の品質を保つことができる。それも大切なことだと理解したうえで、優さんは、こうした「ゆらぎ」こそが手造りならではの面白さだと語る。
同じ場所で、同じ製法を守っている。それでも、まったく同じ味にはならない。そのわずかな「ゆらぎ」に目を向け、そこから生まれる違いを探っていく。
先代の味をそのまま再現するのではなく、3代目である自分にしかできない造り方、仕事の仕方を追求する。伝統を守りながらも、常識にとらわれない発想で泡盛を生み出し続ける姿勢は、「シラユリスト」と呼ばれる熱心なファンにも支持されている。
実際、優さんはファンの存在にとても支えられているという。東京をはじめ沖縄県外での出展時に手伝いを買って出てくれることも。イベントを開催すれば、各地から張り切って駆けつけるファンの姿もあるそうだ。
酒蔵とファンが一体となって歩んできたからこそ、75年続く今の『池原酒造』がある。
石垣島を訪れたら、観光の途中に、ぜひこの小さな酒蔵を訪ねてみてほしい。市街地から徒歩5分という気軽さの先に待っているのは、創業75年の伝統だけではない。
凍らせて楽しむ白百合、香り高いイヌイ、チョコレートと合わせる泡盛。「伝統を受け継ぎながら、その先にある新しい味わいを探り続ける『池原酒造』には、「泡盛はちょっと苦手」という人にも試してほしい一杯がある。
『池原酒造』
[住所]沖縄県石垣市大川175
[電話番号]0980-82-2230
[営業時間]月〜水13:00-16:00 木〜日10:00-15:00
[休み]不定休 google mapで営業予定をご確認ください。(https://maps.app.goo.gl/qkuyEXcUYdiEViMk7)
[交通]石垣港離島ターミナルから徒歩約10分、南ぬ島石垣空港から車で約30分
[見学]見学時間:30分、公式LINEから予約可能
[公式サイト]https://www.shirayuri-ikehara.com/










