永谷園は、70年以上に渡り愛され続ける「お茶づけ海苔」といったロングセラー商品が多数ある一方で、次々と世の中に送り出す商品に新たな付加価値を与えてきた。新しいものを生み出す姿勢や時代とともに変化するニーズに合わせた商品づくりについて永谷園の皆さんに聞いてみた。そのチャレンジ精神からは、困難も多い今の時代を乗り切るヒントが隠されているかもしれない。
「麻婆春雨」は日本生まれの中華惣菜
「麻婆春雨」は1981(昭和56)年、永谷園によって作られた日本生まれの中華惣菜であることはご存知だろうか。
類似メニューに四川料理の春雨のひき肉炒めである「●蟻上樹(マーイーシャンシュー)」(●は虫へんに馬)があるが、日本国内では「麻婆春雨」のほうが一般的になっているし、そもそもご飯に合う濃厚なスープに春雨を合わせるというアイデアが大元となっているという。
自身も商品企画や品質開発などの部署でさまざまな商品に携わってきた、永谷園・広報部長の小川美朋さんはこう話す。
「創業者の永谷嘉男(1923~2005)は、商品開発が大好きでした。『お茶づけ海苔』や『すし太郎』など、次々とヒット商品を生み出し、私たちの日常をちょっと便利にしました。そんな嘉男は商品開発の能力とセンスが高い社員を2年間、国内外でぶらぶらしてさまざまなものに触れ、新たな商品を開発するという制度を提案しました。『麻婆春雨』はこの“ぶらぶら社員”のアイデアにより、1981年に生み出されたものです」
「意外な場所で意外な時に…」創業者・永谷嘉男の発想の源
永谷園には、“ぶらぶら社員制度”というユニークな働き方がある。この制度は、永谷嘉男の「意外な場所で意外な時に斬新なアイデアが生まれる」という持論から生まれた。既存の価値観にとらわれないアイデアで発想すること、その姿勢こそが永谷園の強さの一つだ。
そもそも社員を自由にぶらぶらさせるという発想自体が実にぶっ飛んでいて素敵じゃないか。
新たな価値を生んだロングセラー商品
例えば1989(平成元)年に発売された「おとなのふりかけ」は、学校給食などで出されることも多く、子どもの食べものというイメージだったふりかけだが、「子どもだけでなく、大人も満足できる」をテーマに開発された。
「海苔やメニュー素材の吟味を守り続けたことで、少子高齢化が進む現代において(大人の)需要拡大につながっています」と小川さん。
ちなみに、同社から2015年に発売されている「風味自慢ふりかけ」という密かに人気を博している商品がある。「ゆず胡椒」「山椒」「七味」の3味をラインナップするこのシリーズは、ご飯との相性の良さは当然ながら、パスタなどの麺類にも合うし、薬味としても使える。筆者自身も友達に勧められて以来ハマり、我が家も常備している商品だ。
永谷園広報部の淡路大介さんのおすすめは、タレ&カラシなしの納豆に瓶詰めのなめたけ小さじ1を入れて、「ゆず胡椒ふりかけ」をひとふりしたものだそう。私はちょっとふりかけを多めにしていただいたが、柚子胡椒の爽やかな香りと味わいにご飯がぐいぐいと進んでしまう危険すぎる美味しさだった。
永谷園には年間、消費者からおよそ1700件もの「どこで買えますか?」という問い合わせが入るそう。2020年から2024年までの5年間で問い合わせが最も多かったのがこの商品なのだとか。
「おとなのふりかけ」のようなロングセラー商品がありながらも、新たなヒット商品を送り出している永谷園。その中でも異色の存在が「煮込みラーメン」かもしれない。1993(平成5)年に新登場したのち、2003(平成15)年に再発売された。
「野菜や肉と一緒に煮込んで鍋感覚でいただけるラーメンということで、お子さんが野菜をたくさん食べてくれると、子育て世代から絶大な評価をいただきました。それが新たな価値となったことでロングセラー入りした一例と言えるかもしれません」(小川さん)
生麺を低温で2日間かけて干し、乾燥させて熟成するので、調理することで生麺と同じようなコシと食感が楽しめる。食べてみると単なるインスタントラーメンとも、鍋出汁に乾麺を入れたものとも異なっていることがわかる。
「これらは既成商品へのちょっとしたプラスアルファですが、その商品の価値や認識をガラリと変えるようなものだったのかもしれません」と小川さん。