週刊漫画誌「モーニング」(講談社発行)で連載中の「クッキングパパ」は、主人公のサラリーマン荒岩一味が、得意の料理の腕を振るって、家族や同僚らとの絆を深めるストーリーが人気。
著者のうえやまとちさん自身が、試行錯誤を繰り返しながら作り上げた自信作のオリジナルレシピを、詳細なイラストと臨場感あふれる筆致で紹介しています。本欄では3月3日号で通算1600話を突破した膨大なエピソードのなかから、毎週1つを取り上げ、その料理にまつわる四方山話をお届けします。
長引くコロナ禍で、自炊をする人が増えているいま、「クッキングパパ」を参考に料理を作って食べて楽しんでみませんか。第11回目は、「あさり」です。
意外に難しいあさりの「砂抜き」 コツは生息環境に似せること
うっすら汗ばむ陽気に、薫風が吹き抜けるこれから初夏にかけての風物詩と言えば、潮干狩りです。この時期がベストシーズンと言われるのは、春と秋は干満差が大きく、特に春は日中、潮が引いて大きな干潟が現れるため、砂の中の貝を採取するのに最適なのです。
なかでも旬を迎えたあさりは、春の産卵前に身が太り食べごろになるのが狙い目。潮干狩りで獲れた新鮮なあさりは早速、「COOK.165 春の海の恵みあさりめし」を参考に、調理してみてはいかがでしょう。
まずは、あさりをひと晩かけてしっかり砂抜きすることが肝心です。食べた途端、ジャリジャリ噛んでしまったら、興ざめですから。
砂抜きのコツは、あさりが生息している環境になるべく近づけるよう、角バットなどに海水か塩水を張り、あさりが少し水面から出るくらいの量に調整します。砂抜きが終わったら、殻同士をこすり合わせて洗うひと手間もお忘れなく。
さて、いよいよあさりを水から火にかけますが、ここから最大のポイントとなりますので目を離さないで。火を通し過ぎて身が固くなるのを防ぐため、あさりが口を開けた途端、素早く取り出します。透明でプリっとした弾力のある身に美味しさがギュッとつまっているからです。
残った茹で汁ですが、捨てるなんてご法度。うま味成分が溶け出していますので、この茹で汁でご飯を炊き上げます。そのため、泡や灰汁(あく)を取り除き、下の方の沈殿物は注がずに捨てましょう。
ご飯を炊いている間、あさりと相性抜群のネギを刻んでおきます。また、あらかじめあさりの殻をはずしてむき身にしてから加えると、お子さんにも食べやすくなります。
炊き上がったら、すぐにしょう油をふりかけ蓋をして7、8分蒸らしておきます。さらにあさりとねぎを入れてご飯と混ぜ合わせさらに7、8分蒸らしてできあがりです。
江戸前漁師のソウルフードをいまに伝える「深川めし」
今回、具はあさりとねぎだけ。味付けはしょう油とお酒だけ。あさりから出るうまみたっぷりのエキスこそ、何にも勝る調味料ですから、至極シンプルにいただきましょう。
このうま味はコハク酸という成分によるもので、新陳代謝を促してくれます。「海のサプリメント」と称されるあさりにはほかにも、貧血予防に効果的なビタミンB12 や鉄、カリウム、亜鉛、鉄などのミネラルもたっぷりです。肝機能の改善が期待できるタウリンも多いので、お酒のおつまみにももってこいです。
「あさりめし」と言えば、東京の下町、江東区深川エリアには「深川めし」と呼ばれる郷土料理があります。江戸時代、この辺りの東京湾は干潟が多く、江戸前の豊富な貝類や海苔などが多く獲れる漁師町として栄えていました。
そこで、新鮮なあさりを粗く刻んだねぎと一緒に味噌で煮込んでご飯にかけていただく「深川めし」が、漁師さんたちが忙しい漁の合間を縫って、簡単にすぐ作れ、栄養満点であることから重宝されたのです。
むき身を使った炊き込みご飯とともに、一般家庭にも広まりましたが、戦後、東京湾の埋め立てが進み、水質も悪化して漁場は消失。「深川めし」も一時なくなりかけましたが、滋味深い庶民の味を次世代に残そうという動きで復活。近年では、農林水産省が定めた「うちの郷土料理100選」にも選ばれ、江戸の伝統食をいまに伝えています。