「時代と共にいろいろと変わっているんですよ。糊をつける『ヘラ』も、昔は作業効率の悪い『竹ベラ』が使われていました。現在の『デバベラ』が考案されたのは明治の頃なんです。工房の灯も、昔は障子からの自然光だったのを、のちに白熱灯に替えました。今はさらに替わって、LEDです。LEDは熱が出にくく、糊を乾燥させないんですね」
また、「蒸し」の工程では、昔はかまどで火を焚いて蒸していたという。かまどを修理する職人がいなくなり、泣く泣くボイラーに変えた。しかし、使ってみれば、ボイラーは微調整ができるので、かえって出来もよくなったという。
「健在だった父親が、『もっと早く替えればよかったな』とぼやいてました」と小宮さん。加湿器、デジタル秤など、ほかにも「小紋にとってよい」と思ったものはためらわず採り入れる。イノベーションである。
こうした、「変えたほうがよい部分」がある一方で、当然ながら「守るべき部分」がある。
「その線引きは難しいですね。ただひとつ言えるのは、『儲け』に走って工程を変えてしまうと、伝統が伝統でなくなってしまうということでしょう」
たとえば、本来は職人が手作業で仕上げる型紙を、完全デジタル化もできる。しかし、その作品を見ながら小宮さんは言う。
「ある意味非常に正確なんです。でも、どこかが違う。この柄の着物を人に着てもらうと、まるで印刷物を着ているように見えてしまう。着物というのは、そうではなく、いかに人を『映えさせられるか』が肝心だと思うのです。その違いは、私にもうまく表現できないんですが……。ただ、人が心動かされるものは、やはり人が整え、作り上げたものなのだろうと思うのです」