小紋は分業の世界 全体で意識改革を
小宮さんの息子・康義さんも現在、「江戸小紋」の道を歩んでいる。「型付け」の工程は康義さんに任せている。心強い4代目だ。しかし、だからといって「江戸小紋の未来は安泰ではない」と小宮さんは言い切った。
「江戸小紋は分業の世界です。型紙を彫る職人さんがいますし、その紙を漉く和紙職人もいます。まず、紙の質が悪ければ、型紙はあっという間に使えなくなってしまう。型紙職人も彫りにくいんですね 」
和紙職人、型紙職人ともに高齢化が進み、「風前の灯」だという。
「紋様は伝統的なものもあれば、現代新たにデザインしたものもあります。型を彫る職人、また彫り方の注文の仕方でも紋の表情が変わるんですね。
型紙は消耗品ですから、型紙職人に存続してもらうのが大前提です。実際に使う分の20倍くらい依頼しないと、型紙職人が食べていけない。ですから、先々代の昔から、あまり使わない型も注文して、職人を守ってきました。
今うちの倉庫には型紙がたくさん保管してあります。これが江戸小紋の生命線ですから、火災や災害はほんとうに怖いです。祖父は5度も家を失くし、どんな思いだったのかと……」
しかし、守ろうとしても職人 の「なり手」がいなければ守りようがない。小宮さんの表情がかげった。
一方で、切羽詰まったことがよい結果を生んだ例もあるという。
「糊の原料は『米糠』なんですが、長年お願いしていた糠の製粉業者が廃業してしまったんです。しかたなく、製粉機械を買って自家製粉し始めたのですが、これがかえってよい結果になりました。
業者は『製粉しやすい糠』を選んでいたのですが、私たちは『糊の原料として最適な糠』を選べる。そこで、玄米の表面8%の糠と、吟醸酒を醸すため酒米を削った米の中心に近い部分の糠を独自の配合で混ぜてみました。すると、以前よりぐっと質のよい糊になることがわかったんです」
「蒸し」の工程で「ボイラー」に替えた時と同じように、「ピンチをチャンスに変えた」のだと小宮さんは語った。
「ただし、『江戸小紋』の工程すべてを自社でしてしまえばいいかというと、それは違うと思います。ひとりができることは限られています。同じ人がつくれば、その『器』のものしかできませんが、分業の世界では、各々のレベルが上がれば、想像を超えたいいものができるはず。ですから、江戸小紋の未来は業界全体の意識改革にかかっているのです」