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100年ぶりに帰って来た祖父の布が伝えるもの

最近、康正さんに不思議な出来事があった。

たまたま出かけた鎌倉で、古着屋に入ると、一枚の古布が目に留まった。3500円の値札がついていたが、値切ってみると店主が2500円でいいという。この布がなぜだか気になった康正さんは、家に帰り、祖父が創業した明治40年頃の見本帳と見比べてみた。

祖父が染めていた見本と、雰囲気がまったく一緒なんです。紋様が完全に一致するわけではないのですが、ほぼまちがいなく祖父が染めたものだと思います。100年前に染められた布が、100年ぶりに帰って来たんですよね。しかも遠く離れた鎌倉から……。

江戸小紋は、大事に使っていけば、次の世代へつなげられ、親の思いを次の世代へつなげていくもの。洋服は数年、へたをすると1年で寿命ですが、着物は子から孫へ、2代、3代と伝えられるものです。親から子へ、子から孫へ。それだけ耐えられるようなものをつくらねばならない。それもまた着物を通して、『思い』をつなげるということだと思います」

巡り巡って帰って来た祖父の古布は、康正さんに、その使命をあらためて伝えに来た使者だったのかもしれない。

■小宮康正さん、康義さん 親子
1907(明治40)年に祖父・康助さんが浅草で小宮染色工場を創業。1929(昭和4)年、葛飾区新小岩に移転。1955(昭和30年)、康助さんが国から重要無形文化財保持者の認定を受ける。
1978(昭和53)年、2代目の父康孝さんが、2018(平成30)年、3代目康正さんが重要無形文化財保持者の認定に。4代目にあたる康正さんの息子康義さんもまた江戸小紋の道に進む。2022年9月14日~26日「日本伝統工芸展」(日本橋三越本店)出品

取材/本郷明美 撮影/石井明和

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