生筋子から卵をほぐすときはお風呂の湯加減で
加えて、11月を過ぎると、卵の表面の皮がかたくなり、醤油漬けにすると嚙みきれないようなものもあります。だから、早すぎても、遅すぎてもダメなのがイクラ作りなのです。
さて、そのイクラ作りの難題は、生筋子をいかにつぶれずにほぐせるかに尽きます。
いろいろなやり方がありますが、先の釧路の加工業者さんによれば、「10月の生筋子なら卵もしっかりしているので、もち網を使ってもほぐせる」そうです。けれど、皮がやわらかそうなときは、「お風呂の湯(40度前後)くらいの温度の湯の中で、手でしごくようにはずしていく。割りばしでかき回してもきれいにばらけるよ」とのこと。特に、「割りばしかき回し」作戦は卵つぶれも少なくオススメです。
次なる課題は、ほぐした卵の扱いです。きれいにほぐせたとしても、卵のまわりには白くなった粘膜や、つぶれた卵のカスがたくさん付着しています。これは何度も何度も水洗いし、浮き上がってくるのを丁寧に流し、取り除くしかありません。食通で知られた北海道出身の作家・渡辺淳一さんは、著書『これを食べなきゃ わたしの食物史』(集英社文庫)のなかで、イクラ作りの名人だった亡き母の所作をこう表現されております。
《まず旨いイクラをつくるコツだが。初めに大切なのは、「ひたすら洗うこと」。》
《卵だからといって手加減せず、徹底的に洗う。実際、母は何度も何度も水を替えては、ボールにあふれるほどのイクラを洗い続けていた。この「よく洗う」と、「洗わない」。これがイクラの味の明暗をきめる。》
したがって、オイラはいつも10回以上は水を替えて洗っております。