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「屋根の上の猫」 シュルレアリスムの影響が透けて見える

極私的3曲のその2は1976年発売のソロのファースト・アルバム『PANTAX’S WORLD』から「屋根の上の猫」。このアルバム自体、日本ロック史に残る名作だと思う。

まだメジャー・デビュー以前のCharが竹中尚人という本名でギターを弾いているし、元フラワー・トラヴェリン・バンドのドラマー、和田ジョージなどそうそうたるミュージシャンが参加している。“光の壁をすりぬけて俺はきみになる、時のすきまを横切ってきみは俺になる”という内容の詞はシュルレアリスムの影響が透けて見える。教養が深く、アンドレ・ブルトン(1896~1966年、仏文学者、1924年に『シュルレアリスム宣言』を刊行)にも精通していたPANTAらしい詞だとぼくは受け止めている。

ソロや、「PANTA&HAL」のアルバム

「万物流転」 グルーヴ感が素晴らしい

PANTAのソロ活動が始まったこともあって活動休止をしていた頭脳警察は1990年に再結成される。その後、休止、再結成を重ねながら2008年以降はPANTAのソロ活動と並行して活動を続けている。

極私的3曲のその3は2019年の『頭脳警察7』から「万物流転」だ。副題は“Panta Rhei”。Panta Rheiとは古代ギリシアの哲学者ヘラクレイトスの思想を表す言葉とされ、その意味が万物流転だ。自身の名前PANTAとヘラクレイトスの言葉をかけ合わせるインテリジェンスがいかにもPANTAらしい。ちなみにPANTAというのは無名時代のニックネームで誰よりも早くパンタロンを履いていたことに由来する。

PANTAのヴォーカルとアコースティック・ギター、50年来の盟友であるTOSHIのパーカッション、それにキーボードだけのシンプルなサウンド構成だが、グルーヴ感が素晴らしい。万物はすべて流転してゆくしかないというPANTAの人生への想いが熱く伝わって来る。後期頭脳警察の名曲としてファンの間では人気が高い。

この連載を始めて1年以上が過ぎた。これまで紹介して来た人々に比べPANTA及び頭脳警察の知名度は幾分低いかも知れない。が、彼らは紛れもなく、日本ロックの熱いマグマのひとつなのだ。

岩田由記夫
1950年、東京生まれ。音楽評論家、オーディオライター、プロデューサー。70年代半ばから講談社の雑誌などで活躍。長く、オーディオ・音楽誌を中心に執筆活動を続け、取材した国内外のアーティストは2000人以上。マドンナ、スティング、キース・リチャーズ、リンゴ・スター、ロバート・プラント、大滝詠一、忌野清志郎、桑田佳祐、山下達郎、竹内まりや、細野晴臣……と、音楽史に名を刻む多くのレジェンドたちと会ってきた。FMラジオの構成や選曲も手掛け、パーソナリティーも担当。プロデューサーとして携わったレコードやCDも数多い。著書に『ぼくが出会った素晴らしきミュージシャンたち』など。 電子書籍『ROCK絶対名曲秘話』を刊行中。東京・大岡山のライブハウス「Goodstock Tokyo(グッドストックトーキョー)」で、貴重なアナログ・レコードをLINN(リン)の約400万円のプレーヤーなどハイエンドのオーディオシステムで聴く『レコードの達人』を偶数月に開催中。最新刊は『岩田由記夫のRock & Pop オーディオ入門 音楽とオーディオの新発見(ONTOMO MOOK)』(音楽之友社・1980円)。

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