秋は鮭漁の最盛期。店頭には水揚げされたばかりの「秋鮭」が並びます。その隣には、サーモンが……。鮭の英語名はサーモン。つまり、同じ魚のはずなのに店頭にはまるで別物のように鮭とサーモンが並んでいます。
一般の人々には同じ魚にみえる鮭とサーモン、なぜ名前が使い分けられているのでしょうか? 本稿ではその違いをご紹介しましょう。
文/田村順子(フードライター)、写真/写真AC
「鮭」も「サーモン」も同じ魚
鮭といえば、産卵のために川をさかのぼってくる映像を思い浮かべる人が多いのではないでしょうか? この鮭の遡上が見られるのは秋で、その時期が鮭漁の最盛期となります。
この秋に旬を迎える鮭は分類上サケ科サケ属に属する「白鮭(シロサケ)」という種です。銀鮭、紅鮭なども店頭には並んでいますが、これらは輸入ものがほとんどで、一般的に日本で水揚げされる鮭は白鮭になります。
もういっぽうのサーモンは、ひとくくりにサーモンと表記されることが多いのですが、さまざまな種類があります。
スーパーで売られているもの、お寿司屋さんで提供されているサーモンのほとんどは「アトランティックサーモン」で、正式名称はタイセイヨウサケ。日本で流通しているアトランティックサーモンのほとんどはノルウェーやチリ、カナダから輸入されたものです。国産のものはごく稀で、一般消費者がお目にかかる機会はないと思います。
他にキングサーモンも店頭でよく見かけますね。こちらはアトランティックサーモンのほうが養殖が容易であることから、流通量は少なめ。 ムニエルなどの加熱用、スモークサーモンとして販売されていることが多いようです。
他にトラウトサーモン(サーモントラウト)という名もおなじみですね。ただしこちらは「トラウト」=「鱒(ます)」という名の通り、ニジマスを養殖した魚です。少し混乱してしまうかもしれませんが、鮭(サーモン)も鱒もすべて「サケ目サケ科」に分類され、形状、身の色などに多少の違いはありますが、学術的には同じ種なのです。
トラウトサーモンは鮭と身の色、味も非常に似ていて、一般消費者が調理されたものを判別することは難しいため、景品表示法ではトラウトサーモンを使用した場合は鮭やサーモンではなく、トラウトサーモンと明記することが推奨されています。
なぜ刺身用の鮭は売られていない?
新鮮な鮭が獲れる旬の時期であっても、鮭はお刺身にもできる生食用として売られていません。その理由は、鮭にはアニサキスやサナダムシの他に、川魚に特有の有棘顎口虫といった生命に危険を及ぼすような恐ろしい寄生虫がいることが多いからです。
鮭は古くから日本人に食されてきた魚ですが、生食すると「あたる魚」とされ、先人たちも生では食べなかったようです。
鮭に寄生虫が発生する理由は寄生虫を持った天然の餌を食べるためです。アニサキスやサナダムシはまぐろやさばなどの海水魚にも寄生しますが、鮭は川に棲む餌も食べるため、一般的な海水魚よりも多くの寄生虫が寄生してしまうのです。
ここまで読むと、鮭を食べることが怖くなってしまうという人もいるかと思います。しかし、寄生虫は、70℃以上で1分以上加熱するか、マイナス20℃で24時間以上冷凍すると死滅することがわかっています。そのため、加熱調理をして食べるぶんには怖がる必要はありません。
凍った白鮭の身を半解凍の状態で食べる、北海道の郷土料理「ルイベ」が鮭のお刺身と思っている人もいるかもしれませんが、これは正確には生食ではなく、「刺身もどき」のような料理。一度、鮭の身を冷凍して寄生虫は死滅させているから加熱せずに食べられるのです。