かつて「偏差値29」から東大理科二類に合格した伝説の東大生がいました。杉山奈津子さんです。その日から十うん年……現在は、小学生から高校生までを指導する学習塾代表として、心理学から導いた勉強法を提唱しています。その杉山さん…
画像ギャラリーかつて「偏差値29」から東大理科二類に合格した伝説の東大生がいました。杉山奈津子さんです。その日から十うん年……現在は、小学生から高校生までを指導する学習塾代表として、心理学から導いた勉強法を提唱しています。その杉山さんが、受験生を持つ親に贈る「言ってはいけない言葉」と「子どもの伸ばす言葉」。近著『東大ママの「子どもを伸ばす言葉」事典』から一部を抜粋し、入学試験シーズン真っただなかに集中連載でお届けします。
心理学の「同調行動」を利用する
勉強を、「やりなさい」と本人の意思だけに委ねるのではなく、一緒にやろうと提案してみてください。心理学に、「ミラーリング」という用語があります。自分が好意を持っている相手に対しては、まるで鏡のように、仕草や言動を自然と真似してしまう、という現象のことをいいます。
つまり、家族のような信頼関係が築かれている相手と、同じことを一緒にやるということは、ひとりでやるよりも行動しやすいのです。そして、親子の仲をより親密にしてくれます。
さらに人間には、「一緒に行動したがる」という本能があります。これを「同調行動」といいます。人は、自分の行動を周りに合わせたいという気持ちを無意識のうちに持っています。日本人は特に、「誰かと一緒」という行為に安心感を覚えます。
誰かと一緒の行動は、安心感をもたらす
以前、タピオカが非常にはやった時期がありました。タピオカは、話題になる以前からずっと存在したにもかかわらず、「流行」となったことで、みんながいっせいに買い始めたのです。
タピオカの店も、たくさんつくられたことをみなさん覚えていると思います。ほかにも、レストランでメニューを選ぶとき、人気ナンバーワンと主張するおすすめの料理を、とりあえず選んでみようと思うことも多いでしょう。「誰かと一緒」ということが、どこか安心をもたらすのです。
特に子どもは、親と一緒に行動をしたがる傾向があります。それにひとりだけ勉強をしていると、「自分ばかりが嫌なことを頑張っている」という感情も出てきます。自分が一生懸命、勉強しているときに、家族が笑いながらテレビを見ていたら、どんな気分になるでしょう。「自分ばっかり!」という不満がわいてきませんか。
しかし、そこでもし家族が、自分のやるべきことを手伝ってくれるというなら、自分は尊重されていると感じ、「ありがとう」という感謝の気持ちがわいてきます。
頑張りを見守ることは、子どもの心を満たす
また、一緒に勉強することで、人間が持つ「認めてもらいたがる」という本能を刺激しやすくなります。隣で問題集を見ていれば、子どもがむずかしい問題を解けたとき、すぐにほめることができます。子どもは、「こんなことができる」という面を親に見せたいもの。そうやって頑張りを見守ることで、子どもは心が満たされ、勉強にも身が入るのです。
ですから、せっかく一緒に勉強をしているのに、「こんな問題も解けないの?」などと、おとしめるような言葉は避けましょう。「こんな問題も解けるなんてすごい」だとか、「お母さん(お父さん)にはむずかしい……」という声かけをすることで、子どもの気持ちをどんどん乗せていきましょう。
子どもがまだ小学生のうちなら、親も勉強をみることができますよね。子どもに行動させるために、親が先に行動してみるというのも有効です。できない問題に対して、「こうやって解くんだよ」と教えることもでき、進行がスムーズになります。
親と競争して問題を解く、というゲーム要素があれば、勉強の中に楽しい遊びの要素が加わり、「嫌なもの」という感覚が薄くなります。もちろん、中学・高校生になってからでも、たとえば、英語の穴埋め問題で、解答冊子を親が持ち、子どもがどんどん答えていく、というやり方などで共同作業が可能です。
それに、一緒に勉強することで、子どもと触れ合う時間、会話する時間を増やすことができます。会話をしているとき、人間の脳の前頭葉が活発化することがわかっています。前頭葉は、複雑なものを組み立て、整理するという働きがあります。つまり、勉強中に親子で話すことにより、勉強の効率もよくなるわけで、まさに一石二鳥です。
マンガと文/杉山奈津子(すぎやまなつこ)
杉山塾代表。1982年、静岡県静岡市に生まれる。静岡雙葉高校3年時の実力模試は「偏差値29」だったが、独学勉強法で1浪後、東京大学理科二類に合格。2006年、東京大学薬学部を卒業後は、作家、イラストレーター、心理カウンセラーとして活動。2020年、静岡市内に「杉山塾」を開き、小学生~高校生の学習塾代表として活動中。近著に『東大ママの「子どもを伸ばす言葉」事典』(講談社ビーシー/講談社)がある。