社交辞令はなく、忖度せず、完結した毒舌の水丸さん
掲載した6本のエッセイを読むと、語られる素材としての水丸さんが面白いからなのか、書き手の方々がエッセイの手練れだからなのか、おそらくその両方が相まって、ユニークな安西水丸像が鮮やかに浮かび上がってくる。
村上春樹さんは、お二人がまだ若かった頃のなれそめから生涯続いた交流を語り、そして猫をめぐる微笑ましくも可笑しいエピソードも紹介してくれる。
学生時代から水丸さんと交流があった漫画家・柴門ふみさんは、衝撃的だった水丸さんの漫画デビュー作と独特の表現技法を語り、つかみどころがないがゆえに魅力的な水丸さんの個性について振り返る。
イラストレーターの木内達朗さんは、「正直に告白すると、僕は水丸さんのイラストレーションの良さが全然わからなかった」という一文から始まり、水丸さんがいかに優れたイラストレーターであったかを技術面からわかりやすく解説してくれる。
水丸さんが部長を務めたカレー部の部員として交流があった作家の角田光代さんは、水丸さんの「社交辞令がない」、「忖度しない」、「完結した毒舌」といった個性から、安西水丸という男の美学を語る。
水丸さんが挿絵を担当した食を哲学するエッセイの著者・平松洋子さんは、水丸さんが愛し、平松さんが幼少時から親しんだ民藝品の魅力を語りながら、淡くて濃かった水丸さんの存在感について語る。
大学在学中から水丸さんの薫陶を受けてイラストレーターとなった信濃八太郎さんは、震え上がるほど厳しくて、さりげなく優しく、そしてユーモアを忘れない師の姿を活写する。
6人それぞれの視点から、「何よりも人が生来持つ個性を大事にして、ごくごくシンプルなのに誰にも似ていない」安西水丸の魅力を活写していただいた。
ペン1本を武器に、ジャンルという垣根を軽々と飛び越え、二刀流どころか五刀流、六刀流で活躍した水丸さん。その魅力を多面的に味わうことのできる一冊。ぜひオススメです。