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現在は町の施設6棟、無料の自動運転バスで巡回できる!

境町の面積は、46.59平方キロメートル(国土地理院面積調)とさほど広くありませんが、2018年にオープンした「さかいサンド」を皮切りに、「さかい河岸レストラン 茶蔵(ちゃぐら)」(2019年4月)と合わせて、隈氏設計による公共施設6棟が町内に点在。

他に美術館「S-Gallery」(2020年8月)、町の新たな特産品開発を担う「S-Lab」(同)、アルゼンチン共和国との交流資料を展示したギャラリー&カフェ「モンテネグロ会館」(2020年9月)、干し芋に特化したカフェ「S-ブランド(HOSHIIMONO 100Cafe)」(2021年5月)があります。

上記4施設はいずれも、閑静な住宅街や郊外ののどかな場所と調和して建っており、小ぶりな佇まいが印象的です。散策には、自治体初となる自動運転バスが巡回していますので、利用するのもおススメです(無料)。

境町における隈氏設計の先駆けとして2018年10月にオープンしたサンドイッチ店「さかいサンド」。格子状に組まれた木々の美しい木目とともに、隙間から漏れる光が心地よい

「まちづくりのお願いを快諾」隈氏建築で観光客誘致

そもそも、境町は人口2万3794人(2023年10月1日現在)、町内に鉄道は走っておらず、観光地としての資源に乏しいうえ、隈氏とのゆかりも特にありません。それにも関わらず、なぜ次々と隈氏建築の“ブランド化”が進んでいるのでしょうか。

境町地方創生課に問い合わせたところ、「町の有識者会議の委員さんより、隈氏を紹介していただいたのが交流のきっかけです。橋本正裕町長(2014年より現職)も大学で建築を専攻していたこともあり、町の取り組みについて説明したところ、隈氏に評価いただき、まちづくりのお願いを快諾していただきました」と振り返ります。

財政状況が悪化していた境町では、橋本町長就任後、立て直し策として、従来型のコスト削減ではなく、新しい収入源の開発に着手。その一つがふるさと納税の活用でした。ブランド豚や干し芋などの特産品をどのようにして、寄付額が集まるヒット商品に育てるか、民間企業と同様、マーケティングをしっかり行い、スピーディーに商品化。

幕末にペリーが来航した際、境町出身の藩士とアルゼンチン船員が交流した縁で1937年に建てられた「モンテネグロ会館」。2020年に改築された際は、旧会館の梁(はり)や柱、瓦などを再利用している

また、町内に施設を新設する際の投資を回収して、新たな財源に回す“攻める自治体”として独自の取り組みなど、従来の“お役所仕事”にはない柔軟な視点と迅速な対応などが隈氏に評価されたのではないかと思われます。

実際、隈氏は境町について「通常、自治体の事業は、施設完成までに2~3年間を要するが、境町はスピード感があり1年で完成する。民間企業と仕事をしているようで、面白い」と感想を述べていると、地方創生課では話しています。町中に隈氏の建築を置くことで、観光客による経済効果が生まれ、さらなる投資につながるという狙いもあります。

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中島幸恵
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