ふるさと納税が6万5000円から10年で59億円以上に
東京都内に本拠地を置く隈氏の設計事務所は、北海道などで展開する地方拠点の一つを2022年9月、境町に開設。住民のニーズを把握し、地域に根差した建築を提案するのが目的と思われ、町への期待の高さをうかがわせます。コロナ禍で東京一極集中を改め、地方へ拠点作りを進める社会の潮流と、先駆的な施策を打ち出す境町が持つ将来性が合致した表れとも考えられます。
こうした取り組みの成果は、町のふるさと納税の受け入れ額にも顕著に表れています。境町によると、2013年度6万5000円だったふるさと納税の受け入れ額が、2022年度には、59億5300万円と6年連続で関東1位を獲得。全国でも昨年度より順位をひとつ上げて16位と躍進中です。
中でも隈氏が手掛けた「S-Lab」で商品開発された干し芋は、寄付額が年間2億円に上る人気商品だとか。他の自治体の海産物などの返礼品に比べれば地味ながらも、ヒットしています。
町有施設7棟目はうなぎ加工出荷場、ふるさと納税の新たな目玉商品に
また、隈氏設計で7棟目となる、うなぎ加工出荷場「境町地域産業研究開発拠点施設」(仮称)の完成も予定されています。境町の辺りは江戸時代、付近を流れる利根川の水運を活かして、奥州(東北地方)からの物資を江戸へ運ぶ「河岸(かし)の町」として栄えました。
当時、利根川で獲れるうなぎが名産品だったことから、再びうなぎを特産品として売り出し、ふるさと納税への新たな目玉商品にするほか、将来は稚魚が育つ環境整備にも力を入れたいとしています。完成予想図を見ると、他の6施設同様、白を基調としており、鉄骨2階建ての1階部分に、うなぎを思わせる緩やかなひさしが施された造りとなっています。
民間には設計費を半額補助、隈氏建築の蕎麦屋も完成へ
同じく2023年度中の完成を目指しているのが、「蕎麦屋」です。境町地方創生課によると、町では町民が隈氏建築設計による新築工事を行う場合、設計費の半額を助成する「境町隈研吾建築設計によるまちづくり推進助成金」制度を設置(要相談、上限額あり)。
蕎麦屋は、この制度利用者の第1号となる見込みです。隈氏とタッグを組みチャレンジする町民への支援策は、高い関心が集まると思われます。
今後、隈氏の建築を探訪する観光からさらに踏み込んで、定住人口の増加につながるのか、小さな町の大胆な挑戦に今後ますます目が離せません。
文・写真/中島幸恵
「道の駅 さかい」「さかい河岸レストラン 茶蔵」「さかいサンド」
【住所】茨城県猿島郡境町1341-1
【電話】「道の駅 さかい」0280-87-5011、「さかい河岸レストラン 茶蔵」0280-87-5011、「さかいサンド」0280-81-3101
【営業時間】施設よって異なる
【休日】不定休
「S-Gallery」
【住所】茨城県猿島郡境町1455-1
【電話】0280-23-4148
【営業時間】10時~17時(最終入場16時半)
【休日】月、火※祝日の場合は営業、翌日休
「S-Lab」
【住所】茨城県猿島郡境町1466-2
※外観のみ見学可能
「モンテネグロ会館」
【住所】茨城県猿島郡境町上小橋446-4
【電話】050-3138-2885
【営業時間】11時~16時
【休日】日、月
「S-ブランド(HOSHIIMONO 100Cafe)」
【住所】茨城県猿島郡境町1459-1
【電話】0280-33-3118
【営業時間】10時~18時(17時LO)
【休日】火
アクセスはいずれも圏央道「境古河IC」から10分、または東京駅から高速バスで1時間半。