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私は彼のマナーに感心している

「飛ばす、寄せる、入れる。これがゴルフのすべてだが、若いころはどこかに1つ2つの欠点があって当然。私なんぞ、いまだにアプローチ恐怖症から脱出できずにいる。

ところが彼には欠点がない。自覚するほどの欠点がないから、どのショットでも思いきりスウィングすることができるとも言える。まったく羨ましいゴルファーが現われたものだ。

もちろん、これからは彼も倒すべきターゲットの1人に加えるつもりだ」(マーク・カルカベッキア。最終日に65の好スコアで追い上げたが、タイガーの64に1打及ばず、ケリー・ギブソンと並んで3位に泣いた)

「タイガー青年には、他人とも思えない親近感を抱いてきた。全米ジュニアから全米アマ、そしてプロ転向だろ、私と同じ道ではないか。

しかも、息子がジュニア選手権で彼の胸を借りる仲ときたら、ほとんど親戚みたいなものだね。だから自分が選手だったことも忘れて、つい彼ばかり応援したくなる。困った話だ」(クレッグ・スタドラー。9打差に対するベテランらしい言い訳)

「私は彼のマナーに感心している。ジヤック(・ニクラウス)も、マスターズの試合後のコメントで同じことを言っていたが、要するに自分のプレーばかりに腐心しないで、いつも同伴競技者の動向にさりげなく気を配っているわけだ。若いのに、よく出来た男だと思う。

これはデイビッド・フロストから聞いた話だが、遠征先のホテルにいても、午前5時から黙々とランニングに励んでいるそうだ。若くて少しばかり名前が売れると、すぐに夜遊びしたり酒と女にうつつを抜かすのが多いご時世に、ランニングと読書だろ、彼は本物だと思うね」(ペイン・スチュアート)

「彼はWoods、僕はWood、Sがあれば林や森にもなるけど、僕の場合はただの木でしかない。S一字で人生が大違いさ」(ウィリー・ウッド。Sのあるウッズとは14打の差がついた)

「俺はまだ一緒に回ってないが、噂によると強いらしいね。しかし、ツアーは短期決戦じゃない。毎年、途方もないゲーム数を消化するわけだ。そのあいだにはスランプもあり、ボールなんて見たくもない日もある。たかだか5試合程度で騒ぐのは、本人からするとプレッシャー以外の何物でもない。

なるべくソッとしてやりたいが、まあ無理だね。これで潰れるようでは、スターになれないのさ」(アンディ・ビーン。このところパッとせず、この試合でもウッズと9打差の成績に終わった)

「僕にコメントする資格はないと思うよ。最下位の賞金? 3003ドルだった。彼が29万7000ドル(約3000万円)も掠っていったので、これしか残らなかったのさ。でも、腹一杯のハンバーガーには困らないぜ」(最下位のグレッグ・クラフト。首位と25打差の内訳は、OB二発、トップとダフリが五発、3パットが七回、あとは方向が少しブレただけだと語った)

「彼は立派なチャンピオンだ。まさに敗れて悔いなし、気分爽快だね。ゴルフはイヤになるほど達者だった。とくにアイアンがうまい。これから相当やるだろうね。

それにしてもギャラリー全員が彼の味方とは、恐れ入ったよ。まるでウッズ家に招かれてゴルフをしている気分だった。やれやれ」(プレーオフで敗れたデイビス・ラブⅢ世。このあとロッカーに自分の頭をぶつけて口惜しがった)

(本文は、2000年5月15日刊『ナイス・ボギー』講談社文庫からの抜粋です)

『ナイス・ボギー』 (講談社文庫) Kindle版

夏坂健

1936年、横浜市生まれ。2000年1月19日逝去。共同通信記者、月刊ペン編集長を経て、作家活動に入る。食、ゴルフのエッセイ、ノンフィクション、翻訳に多くの名著を残した。毎年フランスで開催される「ゴルフ・サミット」に唯一アジアから招聘された。また、トップ・アマチュア・ゴルファーとしても活躍した。著書に、『ゴルファーを笑え!』『地球ゴルフ倶楽部』『ゴルフを以って人を観ん』『ゴルフの神様』『ゴルフの処方箋』『美食・大食家びっくり事典』など多数。

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おとなの週末Web編集部 今井
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