『東天閣』か『西の屋』か
ただ一つ、希望はあった。
歩いてる途上、『東天閣』と書かれた駐車場があって、これは焼肉店の名前っぽいよな、と期待したのだ。しかも第二駐車場まであったから、かなり大きな店なんだろうと推測される。閉まってた家庭経営的な店でなく、大規模店だったら、ランチ向けの経営もしてるんじゃないかと望みを懸けたのだ。
そうしていよいよ、通りの出口まで辿り着いた。ありました、ありました、右手に『東天閣』。想像してた以上の大規模店で、店構えは焼肉店というよりもうパチンコ屋(笑)。隣の建物にはコリアの民族衣装を着ている可愛い男女のイラストが描かれてた。「ここがセメント通りで間違いはなかった」とまずは一安心。
ただし、なんですよ。問題は左手にも焼肉店『西の屋』があったこと。ここまで延々、閉まってる店ばかりだったのにゴールまで来たら、今度は2店が道を挟んで営業してた。
一つだけなら選択肢はない。そこに入るだけだ。だが2つとなると迷いが生じる。いったい、どっちに入る……?
まずは落ち着くことだ。一つ隣の道沿いに大きな公園があることが分かり、取り敢えずそこへ行ってベンチに座る。スマホで情報を検索してみる。
『東天閣』はやはり、セメント通りを代表する焼肉店らしい。メニューも豊富だし何と言っても、『孤独のグルメ』に取り上げられたのはこっちの店だった。
こうなるとへそ曲がりの私としては、別な店の方へ行ってみたくなる。すると、『西の屋』。結論は出る。
でもなぁ、やっぱり『孤独のグルメ』に出た店だぞ!? せっかく来たんだからそっちへ行って主人公、井之頭五郎の食したものを食べてみる、というのが筋じゃないの? そんな風にも思えて来る。
あぁ、いかんいかん。じっと座って悩んでいると、迷いがぐるぐる回るだけ。ちょっと歩いてみよう。
「産業道路」にぶつかって…
セメント通りは頭上を首都高が走る、「産業道路」にぶつかって終わっていた。大型トラックがビュンビュン走り過ぎる大通り沿いに、まずは歩いてみた。これ沿いにも焼肉屋はないかなぁ。あったらそっちに行ってみる、というのもテなのかも知れない。
だが、ラーメン屋はあったけれども焼肉屋はなさそうだった。お弁当屋も見つけたけど、ここで買うことはできなさそうだった。
しょうがないから道向かいに渡って、セメント通りの方へ戻ってみる。何と、船宿がありました。ここまで運河が切り込んでいて、出航することができるみたいなのだ。でもなぁ。釣りにやって来たわけじゃないし……。