小説『バスを待つ男』などの著作がある作家の西村健さんは、路線バスをテーマにした作品の書き手としても知られています。西村さんが執筆する「おとなの週末Web」の好評連載「東京路線バスグルメ」の第6弾は、再び多摩川を越えて神奈川県に向かいます。前回シリーズは横浜を巡りましたが、今回は川崎。東海道本線の東側、日本の高度成長期を支えた京浜工業地帯の中核となる川崎臨海方面を中心に街の魅力を探ります。計3回の最終回は、京急大師線(けいきゅうだいしせん)の終着駅・小島新田(こじましんでん)の界隈が登場します。工業地帯のど真ん中で出合った激安の感動グルメとは―――。
鉄路の終点なのに臨港バスで向かった「小島新田」
「西村さん、小島新田も面白いですよ」と教えてくれたのもWebマガジンの担当編集者だ。
「小島新田」なら知っている。京浜急行、大師線の終点である。大師線はそれこそ、川崎大師にお参りに行った時に乗っただけ。だから終点までは乗っていない。
ただ、方向的には京浜工業地帯のど真ん中へ向かう線だ。だからその終点の辺りはそこら中、工場なんだろうなと想像はつく。これまた面白そうだと早速、行くことにする。
ただし前2回と違い、鉄路の終点である。バスで行く必然性は全くない。私もこの連載でなければ、迷うことなく京急川崎駅から大師線に乗り換えていただろう。
でもまぁ、いいじゃないですか。「路線バスグルメ」なんだから。何とか、小島新田の方へ行くバスを探してみた。
調べてみたら、国道409号線沿いに「大師河原」というバス停があって、これが一番、近いみたい。臨港バスの「川03」系統で行けそうである。
前2回とも臨港バスだったからなぁ。1回くらいは川崎市バスにも乗りたかったなぁ、とグチりながら、JR川崎駅前で乗り場を探す。そうすると2つに分かれたターミナルの内、「空島」の方でした。前2回は「海島」でしたからね。ちょっとは変化がつけられてよかった、と何だかこれだけで気分が上がる。
第1回の川崎競輪場、第2回のセメント通りを思い浮かべながら
ターミナルを出たバスは前2回と違い、駅前を、線路と並走している道に沿って走り始めた。次の信号で、右折。結局は駅を背にして走る格好となった。
まぁ前とは違う「空島」から出発しましたからね。多少、走る道が変わるのも当然なのでしょう。
ただ、気がついた。これ、川崎競輪場の前を通る道じゃないの。すぐに、あぁやっぱりそうだった、と分かる。第1回に行った町中華「第二大番」の黄色い店舗が右手にちらりと見えた。間もなく競輪場の前も走り抜けた。
さぁここから先はいよいよ、未知の世界だ。
バスは、かなり長いこと道沿いに走ったかと思うと、上空を首都高の高架が覆う道に出て、ようやく左折した。これ、「産業道路」じゃないの。そしたら方角的に、これを逆方向に行ったら第2回目の「セメント通り」の方へ行く筈だ。
やがてバスは、大きな交差点で右折した。こっちの道もまた、真ん中を首都高の高架が走ってる。ちょっと行った先、「大師河原」のバス停で下車しました。