新大久保とは違うコリアタウンの雰囲気
店を出てセメント通りを元来た方に戻る。よく見たら店の正面にも「創業1960年」と書いてありましたね。さっきは気づかなかった。気づいてたらあんなに迷うことはなかったのに。でもまぁお陰で、船宿も見つけられたから、いいか。
通りの入り口まで戻って来た。最初に角に見つけた、中華料理店。改めて見てみたら「ハナ」という店名でした。韓国語で「ハナ」とは、数を数える時の「一つ」と同じ。「一番」というような意味なんでしょう。
バス通りの向かいを見たら、「ハナ信組」の建物がでん、と鎮座してた。やっぱりここ、コリアタウンなんだなぁと改めて実感。ただ、新大久保なんかのようにそれを前面に押し出すのではなく、普通の住宅街よろしく静かに佇んで、それでいて独自の性質はきっちり保つ。美味しいものをちゃんと供す。こういう街のあり方もあるんですねぇ。
今度は夜、お酒を呑みながら焼肉を突つきに来たいなぁ、と思いながら帰途に就きました。もちろん一人焼肉は寂しいので、誰か友人を誘って……。
西村健
にしむら・けん。1965年、福岡県福岡市生まれ。6歳から同県大牟田市で育つ。東京大学工学部卒。労働省(現・厚生労働省)に勤務後、フリーライターに。96年に『ビンゴ』で作家デビュー。2021年で作家生活25周年を迎えた。05年『劫火』、10年『残火』で日本冒険小説協会大賞。11年、地元の炭鉱の町・大牟田を舞台にした『地の底のヤマ』で日本冒険小説協会大賞を受賞し、12年には同作で吉川英治文学新人賞。14年には『ヤマの疾風』で大藪春彦賞に輝いた。他の著書に『光陰の刃』『バスを待つ男』『バスへ誘う男』『目撃』、雑誌記者として奔走した自身の経験が生んだ渾身の力作長編『激震』(講談社)など。2023年1月下旬、人気シリーズ最新作『バスに集う人々』(実業之日本社)を刊行。